貧血について理解する

貧血について理解する

貧血を正しく理解しよう

貧血は、循環血液中の赤血球量や血色素(ヘモグロビン)濃度が正常よりも少なくなってしまった状態をいいます。しかし、全身の赤血球の数を測定することは大変困難なので、採血によって得られた血液からヘモグロビン濃度(Hb)を測定して判定します。

日本人女性のの20%は貧血と言われ、高齢者や男性の貧血も増えてきている現代、そんな身近な疾患(貧血は診断名ではなく病態)ですが、その原因や分類は意外と知られていないので一緒に学んでいきましょう。

貧血の基準とは

WHO(世界保健機関)による貧血の基準値

  ヘモグロビン濃度(g/dl)
幼児(6カ月~6年) <11
小児(6年~14年) <12
成人男子 <13
成人女子 <12
妊婦 <11

貧血の定義でヘモグロビン濃度を測定する理由は、赤血球の重要な働きに関係しています。

赤血球の重要な働きは、酸素を肺から取り入れ全身に運搬することです。酸素を受け取った組織は、これをエネルギー源として利用し、その代謝物である二酸化炭素を渡して再び肺に運びます。この役割は赤血球に含まれるヘモグロビンが行っているため貧血検査では主にヘモグロビン濃度を指標としているのです。

ヘモグロビンは主に鉄を含む「ヘム」という赤色素(血液が赤いのはこのため)とタンパク質が結合(ヘムタンパク質)してできていて、これが酸素と結合して全身に運んでいきます。

日本人の貧血の多くは鉄欠乏性貧血

貧血はヘモグロビン濃度が低下した状態ですが、体内に含まれる鉄分が減少するとヘモグロビンも減り酸素を運搬できなくなります。

この鉄分が減少した状態を「鉄欠乏性貧血」と呼び、日本では貧血全体の7割以上を占めていると言われ、女性では4人に1人が鉄欠乏性貧血であると考えられています。

また、思春期では成長が激しい時期のため鉄の需要が増えることで貧血を後押ししてしまっています。近年、小児、思春期の子供に多い不登校、体調不良、起立性調整障害は鉄欠乏性貧血と関りがあると私は考えています。

どうして女性は鉄欠乏になりやすいのか

鉄は食べ物から取り込んでいます。食べ物中に含まれる鉄には「タンパク質と結合しているヘム鉄」と「ヘム鉄以外の無機鉄の非ヘム鉄」があります。

ヘム鉄が多く含まれる食材 レバーやあさりなど動物性食品
非ヘム鉄が多く含まれる食材 野菜など植物性食品

この2種類で大きく違うのは、体内での吸収率です。それぞれ

ヘム鉄吸収率 10~20%
非ヘム鉄吸収率 2~5%

実際には、食品中の鉄の約15%程度が吸収されると考えられています。鉄というものは吸収率が悪いミネラルなのがわかります。

吸収の悪い非ヘム鉄もタンパク質やビタミンCと一緒に摂取すると吸収力がアップしますので、動物性食品と植物性食品を組み合わせてバランスよく摂取しましょう。

一方鉄の消費ですが、尿や便、汗などによって体外に排出される鉄の量も少なく、1日に約1.0mg。鉄は生体にとって必要不可欠な物質なのですが、過剰になると活性酸素と呼ばれる心不全や肝不全、がんなどを引き起こす有害物質を発生させてしまいます。その為、身体は鉄分量のバランス(後述しますが、貯蔵鉄が少ない場合吸収力を高め、多い場合は低くなります。)をしっかりとコントロールしているのです。

どうして女性の方が鉄欠乏になりやすいのか、それは1日に約1.0mg消費されるほか、月経により、1日あたりに換算してさらに約0.5mgの鉄が損失されているといわれ、妊娠中や授乳中ではその消費はより多くなります。その為、男性よりも女性の方が鉄欠乏になりやすいのです。

一日に摂取必要な鉄の量とは

前述の鉄の損失量とこの吸収率を考慮して、日本人が1日の食事から鉄を補う量は、

  1日に必要な鉄の量(mg/日)
成人男性 7.5
月経のある女性 11
月経のない女性 6.5

が推奨されています。
(参考:e-ヘルスネット

若い女性の場合、過度なダイエットや朝食抜きの生活習慣が貧血の原因となることもあります。また、高齢者では肉食の減少、粗食が原因ともなりますので。1日3食、バランスよく食べることを心がけてください。

鉄分の過剰摂取について
鉄の場合、通常の食品において過剰摂取が生じる可能性はありませんが、サプリメント、鉄強化食品及び貧血治療用の鉄製剤の不適切な利用に伴って過剰摂取が生じる可能性があるので注意が必要です。

貧血の原因は様々

これまで、鉄欠乏性貧血についてご説明してまいりましたが、貧血を引き起こす原因はとても幅広く以下の原因(一例)によって貧血を引き起こします。

  • 失血性貧血:けが、手術、出産、血管破裂などでの出血が原因
  • 再生不良性貧血:骨髄において造血幹細胞の減少に基づく骨髄機能低下が原因
  • 溶血性貧血:赤血球の寿命は約120日ですがそれよりも早く寿命が来ることが原因
  • 二次性貧血:血液以外の病気(基礎疾患)に続発して起こる貧血

簡単に説明しますと、貧血の原因は

  • 赤血球の消耗・損失が大きいことが原因
  • 赤血球が正常に作られなくなることが原因
  • 赤血球の寿命が早いことが原因
  • 赤血球を作るための材料が不足(合成異常・吸収障害)することが原因

とまとめることができます。

貧血のタイプの見分け方

貧血の原因は、症状から判断することができません。それは、貧血の原因によって症状が変化することがないためです。そこで、貧血のタイプを見極めるために有用しているのが

  • MCV(平均赤血球容積):赤血球1個の大きさ
  • MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度):単位容積赤血球あたりのヘモグロビン濃度

この二つは、健康診断の結果表で見たことがあるのではないでしょうか。この二つの数値から貧血を3つに分類できます。

  • 小球性低色素性貧血:血球が小さくヘモグロビン濃度も低い
    ・・・鉄欠乏性貧血、鉄芽球性貧血、無トランスフェリン血症、サラセミア
  • 正常球正色素性貧血:2つの数値ともに正常
    ・・・溶血性貧血、出血性貧血、腎性貧血、再生不良性貧血
  • 大球性正色素性貧血:血球が大きい状態
    ・・・悪性貧血、巨赤芽球性貧血、再生不良性貧血

貧血のタイプの診断は、この2つの血液検査の他に骨髄検査、腹部エコー、肝機能、腎機能、白血球数、血小板数、間接ビリルビンなど様々な検査によって詳しく診断されます。

血清鉄と貯蔵鉄について

成人の場合、体内にある鉄分の量は約3gで、その内約65%は赤血球中のヘモグロビンの構成成分である「血清鉄」、残りの大部分は肝臓や脾臓、骨髄などにフェリチンやヘモシデリンとして貯蔵している「貯蔵鉄」です。

貧血の方の多くが鉄欠乏性貧血ですが、鉄欠乏性貧血か他の疾患かどうかを調べるための検査は血清鉄と貯蔵鉄を調べることで鑑別します。(貯蔵鉄は直接調べられませんので、フェリチンを測定して判断します。)

奥平智之先生の本(マンガでわかる ココロの不調回復 食べてうつぬけ)でも貯蔵鉄のお話が出てきますが貯蔵鉄とは何かを簡単にご説明いたします。

鉄をお金と考えてご説明いたします。貯蔵鉄は通帳に入っているお金、血清鉄はすぐに使う財布の中のお金と考えてみましょう。

とある買い物で財布のお金(血清鉄)を消費します、不足したものは預金(貯蔵鉄)から下ろしてお財布を補充します。浪費が続くと当然ながら預金残高(貯蔵鉄)が減ってきます。

預金をすべて使い切ると財布に補充されなくなりますので、財布のお金(血清鉄)も預金(貯蔵鉄)も減っている状態が「鉄欠乏性貧血」(金欠)です。

しかし、通帳残高(貯蔵鉄)がなくなっても財布にはまだお金がある状態だとまだ貧血だとは言えない状態です。実は、これが大きな問題で、血液検査でヘモグロビン値(血清鉄)には問題がないのに、鉄(貯蔵鉄)が不足している状態です。

ヘモグロビン値に異常がないから問題がないのではなく、自覚症状があらわれてきたら問題が発生し始めているというように考えていただくことが大切なのです。病気(貧血)になる前に予防(未病対策)をすることを意識しましょう。

一方、預金(貯蔵鉄)はまだあるのに財布のお金(血清鉄)がなくなっている状態も当然あります。この場合は、預金をうまく使うことができていない状態で慢性疾患によっておこる貧血です。ほかにも預金・財布のお金ともにうまく利用できない状態の貧血もありますので、この場合ヘモグロビンもフェリチンも値は高くなります。

貧血と血虚

漢方用語で「血虚(けっきょ)」というものがあります。女性に多く見受けられる状態なのですが、貧血と同じかどうかを聞かれます。

血液検査で貧血と診断されていないのに、「血虚」と言われてしまうからです。血液検査で貧血と診断するためには、前述したようにヘモグロビン値を指標としています。

ですが、中医学の場合は、自覚症状や舌の色などによって「血虚」と判定していますので、検査値や診断名は中医学診断(弁証)には指標としていません。

貧血であると判断された場合は当然「血虚」ですが、貧血でなくても「血虚」の症状がある場合は「血虚」と判断します(この状態を、かくれ貧血とも呼んでいます)。

その為、中医学の場合「血虚」と判断した場合には、改善するために体全体の症状を観察して、五臓の乱れと関連し治療方針を決めていきます。

血虚体質チェック

以下の項目にチェックをつけて見てください。4つ以上当てはまれば「血虚」体質

  • 冷え症、手足やおなかが冷える
  • 顔色が悪い
  • 乾燥肌で、小じわが気になる
  • 眠りが浅い
  • 髪にツヤがなく、枝毛・抜け毛になりやすい
  • 貧血になりやすく、めまいが起こりやすい
  • 生理の量が少なくなり、生理の周期が長くなりやすい
  • 便意はあるが、出にくい
  • ツメが薄くて折れやすい
  • 疲れやすい、立ちくらみ
  • 血圧が低い
  • 気分が落ち込みやすい

女性の多くは「血虚」になりやすいので、日ごろから「血虚」対策は必要です。「血虚」は放置していると「瘀血」「気虚」「陽虚」とさまざまな病態を併発していきます。

「未病対策」は、早目が肝心です。お気軽にご相談ください。