妊婦・授乳婦への薬
- 2019.03.22
- 漢方トピック

妊婦さん、授乳婦さんが西洋薬を服用することを懸念し、漢方薬なら大丈夫かもと思って、お薬をお求めになります。
妊婦さん、授乳婦さんにお薬を処方することは慎重にしなければいけないことですが、薬がどのように影響するのか、どの時期に注意するべきか、どのような工夫ができるのかを十分に理解すれば過度に心配されることはないかと思います。
妊娠週数を確認しましょう
お腹の赤ちゃんにお薬がどのように影響するのか、これは妊娠週数によって異なります。
まずは、ご自分の妊娠週数を確認しましょう。
妊娠週数の数え方
最終月経の開始日(例えば1月1日から月経が始まった)を起点(0週0日)にします。
分娩予定日は40週0日(例でいえば10月8日)になります。ですが妊娠するのは受精した時で、排卵後になりますから、排卵日が14日目の場合と21日目場合では分娩予定日が変化しますので婦人科で教えていただく予定日が正確な週数になります。
妊娠時期による薬の影響
妊娠週数の違いによる薬剤の影響を(表1)に示しています。
人工授精や体外受精などで妊娠時期をしっかり確認できる方や計画妊娠されている場合以外は、5~6週頃に月経が遅れていることで検査薬等で妊娠を確認されるかと思われます。
婦人科では最終月経から4週以内というのは、”all or none”の時期と呼ばれ、何か異常があれば流産してしまう、あるいは着床しない、妊娠が継続する場合には問題なく生まれてくるとわかっていますので、その間に風邪薬やアレルギー剤を服用していたとしても心配されることはありません。
ただし、妊娠前・妊娠4週未満は、体内に長期間蓄積(残留性)される薬剤は服用しないようにいたしましょう。
慢性疾患等で継続的に薬剤を服用している方は、妊娠を希望しているまたは妊娠する可能性がある場合には、必ず医師又は薬剤師に相談いたしましょう。
(表1)妊娠の各時期による薬剤の影響の変化
妊娠の時期 薬剤の影響 妊娠4週未満 まだ胎児の器官形成は開始されておらず,母体薬剤投与の影響を受けた受精卵は,着床しなかったり,流産してしまったり,あるいは完全に修復されるかのいずれかである。ただし,残留性のある薬剤の場合は要注意である。 妊娠4週から7週まで 胎児の体の原器が作られる器官形成期であり,奇形を起こすかどうかという意味では最も過敏性が高い「絶対過敏期」である。この時期には本人も妊娠していることに気づいていないことも多い。 妊娠8週から15週まで 胎児の重要な器管の形成は終わり,奇形を起こすという意味での過敏期を過ぎてその感受性が低下する時期。一部では分化などが続いているため,奇形を起こす心配がなくなるわけではない。 妊娠16週から分娩まで 胎児に奇形を起こすことが問題となることはないが,多くの薬剤は胎盤を通過して,胎児に移行する。胎児発育の抑制,胎児の機能的発育への影響,子宮内胎児死亡,分娩直後の新生児の適応障害や胎盤からの薬剤が急になくなることによる離脱障害が問題となる。 授乳期 多くの薬剤が母乳中に移行する。児には消化管を通しての吸収に変わる。 妊婦の薬物服用より引用
注意すべき薬剤
(表1)から特に注意すべき時期は4週から16週、この時期は奇形に関する薬剤に気を付けていただきます。16週以降は奇形に関する異常は問題ないのですが胎児毒性の問題があるので使用薬物によっては慎重に考えましょう。
注意すべき薬剤かどうかは「添付文書」を確認して見分けることもできます。
「添付文書」に『次の人は服用しないこと』又は『投与しないことが望ましい』の欄に、「妊婦又妊娠していると思われる人」「生後三カ月未満の乳児」と記載されている場合には、服用しないようにいたしましょう。
『次の人は服用前に医師又は薬剤師に相談すること』の欄に、「妊婦又は妊娠していると思われる人」「生後三カ月未満の乳児」と記載されている場合には、医師又は薬剤師に直接相談いたしましょう。
以下気を付けたい薬剤一覧
(表2)
妊娠にあたって是非とも避けたい薬剤 慎重に使いたい主な薬剤
- 抗菌薬・抗ウイルス剤
リバビリン,キニーネ- 抗高脂血症薬
プラバスタチン,シンバスタチンなど- 抗ガン剤
- 麻薬
- 睡眠薬
フルラゼパム,トリアゾラムなど- 抗潰瘍薬
ミソプロストール- 抗凝固薬
ワーファリン- ホルモン剤
ダナゾール,女性ホルモン- ワクチン類
麻疹ワクチン,おたふくかぜワクチン,風疹ワクチンなど- その他
エルゴメトリン,ビタミンAなど
- 抗菌薬・抗ウイルス剤
アミノグリコシド系,テトラサイクリン系- 降圧剤
βブロッカー,ACE 阻害剤,アンギオテンシン II受容体阻害剤など- 抗けいれん剤
フェニトイン,フェノバルビタール,バルプロ酸など- 抗うつ剤
イミプラミンなど- 非ステロイド抗炎症薬
アセトアミノフェン以外の抗炎症薬- 向精神薬
リチウム- 利尿剤
妊婦の薬物服用より引用
(表2)に記載されている薬剤の多くは医療機関を受診していないと処方してもらえない薬剤です。その為、妊娠を希望しているまたは妊娠する可能性がある場合・授乳中である場合には、必ず医師又は薬剤師に相談いたしましょう。
一般薬局で個人的に購入する薬剤の中にも特に注意していただきたいのがあります。購入前に、薬剤師又は登録販売員に確認を求めてください。
妊娠中の薬剤の服用に関しては、自然に治癒できる症状の場合は不要な薬剤の服用は避けるようにいたしましょう。
授乳婦さんの服用薬剤について
授乳婦さんは、食べ物同様に薬も乳汁へ移行いたしますので特に新生児の場合には注意が必要です。
風邪薬や抗アレルギー薬などを服用する場合には、授乳した後にお薬を服用して母乳への薬剤の濃度を少しでも減らすようにいたしましょう。
食べ物でも、辛いものや刺激物を食べすぎると赤ちゃんのうんちがやわらかくなり、お尻が赤くかぶれたようになることがありますので食べすぎには注意してください。
インフルエンザの予防接種について
インフルエンザの流行期にインフルエンザワクチンを使用しても良いかどうか聞かれます。
婦人科の先生のお話では、妊婦さんの場合はインフルエンザが重症化しやすいと言われていますので、積極的に予防接種をお勧めしています。💉
サプリメントについて
妊婦さんにおススメのサプリメントとして、葉酸・ビタミンB12が推奨され多くの方に認知されていますが、逆に過剰な摂取を控えるべきサプリメントについては知られていません。
水溶性ビタミンである葉酸、ビタミンB12は、体内に取り入れても尿などから体外へ排泄されやすいのですが、水に溶けない脂溶性ビタミンは、体の中に蓄積されやすいため過剰な摂取は控えるべきです。
脂溶性ビタミンは、ビタミンA・ビタミンD・ビタミンK・ビタミンEの4種類
ビタミンは体の中で作ることができないため、食事で摂取しなくてはいけないものです。バランスのとれた食事をしていれば不足することはありませんので、脂溶性ビタミンのサプリメントは摂取を避けておきましょう。
その他に、様々なサプリメントを服用されている方がいます。過剰に心配されることはないかと思われますが、どうしても服用しないといけない場合以外は、摂取を控えておきましょう。
服用を避けたい漢方生薬
漢方生薬は天然物ですが毒性が強い植物もありますので、その使用を控えるべきものがあります。
禁止すべき生薬;
巴豆(はず)、牽牛子(けんごし)、大戟(たいげき)、甘遂(かんつい)、芫花(げんか)、商陸(しょうりく)、麝香(じゃこう)、莪朮(がじゅつ)、三稜(さんりょう)、水蛭(すいてつ)、虻虫(ぼうちゅう)、斑蝥(はんみょう)
上記の生薬を使用している医薬品・健康食品の服用は避けていきましょう。上記生薬を使用している医薬品の添付文書に、妊婦・授乳婦さんに対しての記載がなくても使用を控えることをお勧めいたします。
慎重に使用すべき生薬;
紅花(こうか)、桃仁(とうにん)、大黄(だいおう)、枳実(きじつ)、附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、桂皮(けいひ)、冬葵子(とうきし)
上記の生薬は、使用する分量に注意が必要で、添付文書に禁忌の記載がない場合で、妊娠初期(~13週目)に過剰に服用しないように気を付けていただければ、服用しても大丈夫です。
妊娠後期
出産目前で控えておきたい薬物は、妊娠初期と同じですが、特に子宮収縮作用のある薬物に注意が必要です。
安胎薬
流産を繰り返してしまう場合には、安胎薬として漢方薬を使用することがあります。
流産は妊娠の15%前後。妊娠した女性の約40%が流産し、妊娠12週未満の早い時期での流産が80%以上です。
流産の原因の多くが染色体異常であり、お母さんの生活習慣や運動、食事が原因して流産することは考えられていませんが、タバコはご自分の身体のためにも妊娠を機会に止める努力をしていきましょう。
産後の漢方薬
古くから産前後に飲まれていた漢方薬に、中将湯、実母散、命の母、蘇命散があり血の道症の改善薬として有名なものがある。
昭和世代のお母さんたちと昭和後期から平成世代のお母さんたちとでは、体質に変化があらわれてきているのを感じます。
昭和世代のお母さんたちの産前産後の不調は「瘀血(おけつ)」と呼ばれる、血の巡りの悪さが原因していたため、活血剤(かっけつざい)と呼ばれる瘀血を改善する漢方薬が使われてきました。
昭和後期から平成世代のお母さんたちは、「血虚(けっきょ)」と呼ばれる、血の働きの不足や低下が体調不良を引き起こしています。その為、補血剤(ほけつざい)と呼ばれる血を補う漢方薬がよく使用されます。
まとめ
結論としましては、医薬品・健康食品などのサプリメントを服用する場合には、医師又は薬剤師に相談すること、又は添付文書で注意事項をしっかりと読んでいただくことが大切です。
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