癌(がん)に対する漢方薬の可能性

癌(がん)に対する漢方薬の可能性

1981年以来、日本における死亡原因の第1位は「がん(悪性新生物)」です。
国立がん研究センターの統計データでは、がんの死亡数は増加し続け、2015年(平成17年)の癌死亡数は、1985年(昭和60年)の約2倍となっています。その原因の一つには人口の高齢化があり、60歳以降になると癌に患う確率が高くなってる統計データがあります。

・厚生労働省「死因順位(第5位まで)別にみた死亡数・死亡率(人口10万対)の年次推移」:
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth7.html

平成 30 年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況より

・国立がん研究センター「年次推移」:
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html

癌に対する漢方の可能性

癌治療において、東洋医学である漢方薬には大きな役割があると私は考えています。その役割について、ご紹介いたします。

がん悪液質の症状の軽減

「がん悪液質」と聞きなれない言葉ですが、定義は以下の通りです。

「がん悪液質」の定義:「従来の栄養サポートで改善することが困難で、進行性の機能障害をもたらし、(脂肪組織の有無にかかわらず)著しい筋組織の減少を特徴とする複合的な代謝障害症候群である。病態生理学的には経口摂取の減少と代謝異常による負の蛋白、エネルギーバランスを特徴とする」(2011年発行の「悪液質に対するガイドライン(「European Palliative Care Research Collaborative (EPCR)ガイドラインより」)

具体的には、がん悪液質は進行性がん患者さんの約8割に起きるもので、「がん」が身体の栄養を奪い取ってしまい、身体の栄養状態が悪化していく様態のことを言います。

体重減少、食欲不振、脂肪・筋肉組織の消耗を典型的な症状に加えて,化学療法の効果の減弱,副作用や治療中断の増加,さらには生存率にまで影響をおよぼすします。

体重の減少は、その程度に応じて予後を悪化させるため十分な対策が必要です。

がん悪液質の克服はがん患者さんのQOLを改善するためにもとても大切なことで、その対策として漢方薬が注目されています。

抗がん剤治療のサポート

がん治療は外科手術、放射線療法、抗がん剤などが行われますが、抗がん剤に伴う嘔気・嘔吐、食欲不振、全身倦怠感などの症状は、予定の抗がん剤治療プランを完遂できなくなってしまう可能性があります。

抗がん剤治療において予定した治療を途中で中断した患者さんよりも、すべての治療計画を完遂できた患者さんの方が生存率が高い。

その為、抗がん剤による副作用対策として漢方薬を利用し、抗がん剤の副作用を軽減することで治療計画を完遂し生存率を高めていくサポートとなるのです。

精神面のサポート

免疫力が安定している状態を中医学では「気血」「五臓」が安定した働きをしていると考えます。
安定しているというのは、働きが弱かったり、過剰に働きすぎることのないようにバランスが取れている状態のことを指しています。

「気血」「五臓」は免疫力だけではなく、自律神経・精神神経の安定とも深くかかわりを持っているため、それぞれの低下あるいは過剰反応は、気うつ、睡眠障害、イライラ、不安といった状態が引き起こされます。

精神不安・睡眠障害・イライラが免疫力を低下させることがわかっていますので、漢方薬を用いて「気血」「五臓」のバランスを整え、精神状態を安定させることで本来の免疫の働きを整えることは有益であると考えられています。

予防が大切

本来、中医学は予防医学です。

人は誰でも年はとります。健康長寿は誰もが望んでいることですが、そのためにはただ何気なく生活しているだけでは健康長寿を得られることはできません。

癌患者が60歳以降に増加傾向にあるのは、老化と癌とは密接な関係があるといえます。しかし、加齢により癌の確立が高くても100%ではありません。

がんを患う方とそうでない方の違いを明確にすることは極めて困難ですが、私たちの身体にある細胞は栄養が不足したり、たくさん傷つけられると正しく再生することが困難となることがわかっています。

癌細胞はもともとは私たちにある正常な細胞だったのですが、栄養不足や傷つけられることによって異常な細胞へと変化してしまった結果なのです。

私たちの身体を構成している細胞ひとつひとつに、酸素や栄養を十分に与え老廃物を回収し、傷ついた状態を修復するためには血流循環、主に毛細血管の流れが重要になります。

中医学では、血流循環が悪い状態を「瘀血(おけつ)」といいます。「瘀血」は万病のもとともいわれ、アトピー性皮膚炎、高血圧、糖尿病、自律神経失調症、更年期障害などさまざまな悩みを引き起こします。

ご自分の瘀血度をチェックして、自分に合った対策をいたしましょう。

 

瘀血(おけつ)度チェック

転移の予防

「ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)」と呼ばれる物質は「心臓」から放出される物質。
「ANP」は、何らかの原因で心臓に負担がかかった時、心臓の筋肉の細胞から放出され、血液の流れに乗って全身に広がっていきます。全身に広がった「ANP」は、心臓にかかっている負担を減らすため「腎臓」では尿量を増やして血圧を下げる、「血管」に作用して血管を拡張して血圧を下げて心臓の負担を軽減します。

この「ANP」は、外科手術などの際に心臓の負担を軽くし、様々な術後の合併症を減らすことが目的で使用されています。しかし、この「ANP」を投与した患者さんのがん再発率が低下し、生存率が伸びたことが判明しました。(NHK:世界初!心臓からの”メッセージ”で「がん転移予防より)

このことから、様々な研究の結果、「ANP」には心臓の負担を減らす以外、血管の内側にある傷を修復し「血管をきれいにする」作用があることが判明しました。

血管をきれいに修復することが「がん」の転移予防になるわけは、血管が傷ついていると血液中にあるがん細胞がその傷から入り込み、他の臓器の組織で増殖しようとします。しかし、血管が修復されきれいな状態であれば、がん細胞は血管の外に出られずに増殖することができないまま数日で死んでしまうことがわかっています。

現在、「ANP」は様々な研究が行われていますが、がんの転移予防として正式に認められているわけではありません。詳しくは「大阪大学 呼吸器外科」HP:心臓ホルモン(ANP、ハンプ)にてういてのお問い合わせに対する回答)を参照ください。


以上のように、漢方薬はがんに対しても様々なアプローチができ、西洋治療のサポートとして有益であると思います。