不眠症の改善に帰脾湯・加味帰脾湯

不眠症の改善に帰脾湯・加味帰脾湯

精神疾患、不眠症やうつでお悩みの方によく使用されている「帰脾湯(きひとう)」「加味帰脾湯(かみきひとう)」についてご紹介いたします。

 

不眠症治療について

 

帰脾湯・加味帰脾湯について

漢方薬の配合内容

生薬名 帰脾湯 加味帰脾湯
人参(ニンジン) 2.0 3.0
茯苓(ブクリョウ) 2.0 3.0
竜眼肉(リュウガンニク) 2.0 3.0
当帰(トウキ) 2.0 2.0
柴胡(サイコ) 3.0
甘草(カンゾウ) 1.0 1.0
大棗(タイソウ) 1.5 2.0
生姜(ショウキョウ) 0.5 0.5
白朮(ビャクジュツ) 2.0 3.0
酸棗仁(サンソウニン) 2.0 3.0
黄耆(オウギ) 2.0 3.0
遠志(オンジ) 1.0 2.0
山梔子(サンシシ) 2.0
木香(モッコウ) 1.0 1.0
牡丹皮(ボタンピ) 2.0
効能効果 体力中程度以下で、心身が疲れ、血色が悪いものの次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症 体力中程度以下で、心身が疲れ、血色が悪く、ときに熱感を伴うものの次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症

(参照:薬局製剤指針)

帰脾湯と加味帰脾湯の違いは、煎じ薬の場合では帰脾湯に「柴胡・牡丹皮・山梔子」を加えたものが加味帰脾湯となります。配合分量では、加味帰脾湯のほうが1日当たりの全量では、加味された生薬を除いて比較すると7.5gも多く生薬が使用されています。さらに、エキス剤や散剤ではメーカーによって配合量に違いがあります。

どのような状態に使用するのか

「補気健脾」「養心安神」を組み合わせた処方。
精神的ストレス、思慮過度や疲労によって食事の消化吸収機能が障害されて倦怠感や食欲不振となり、消化器系の機能低下が身体だけでなく精神への栄養不足を引き起こすことで「驚きやすく動悸がする」「持続する動悸」「健忘」「不眠」「日中ねむい」「眠りが浅い」などの精神症状が出現している状態にすすめられます。

また、中医学では脾胃の機能失調は、脾不統血という出血傾向を引き起こすため、鼻血、皮下出血、不正出血、血便、月経過多などの様々な出血症状が現れることもあります。

加味帰脾湯は、上記の症状にイライラ、のぼせ、ほてり、胸苦しいなどの熱症状を伴うときに使用されます。

このように、五臓の「脾」「心」が同時に弱っている状態を「心脾両虚」といいます。

配合生薬の構成と特徴について

帰脾湯・加味帰脾湯は、「脾」の働きと「心」の働きの低下が同時に発生している状態なので、「脾」の働きを整える配合と、心の働きを整える生薬が配合されています。

「脾」の働きを整える基本構成は「四君子湯(しんくんしとう)」(ニンジン・ビャクジュツ・ブクリョウ・カンゾウ・ショウキョウ・タイソウ)。脾胃を整えるほかの処方に、六君子湯、補中益気湯、参苓白朮散、香砂六君子湯などがありますがすべて四君子湯をベースに構成されています。

「心(血)」を整える生薬は、竜眼肉、酸棗仁、遠志で、睡眠改善の核となる生薬です。「心血」が不足すると不安や緊張を引き起こし、睡眠の妨げとなります。そこで「心血」を養うことによって不安を改善させる生薬を養心安神薬(ようしんあんじんやく)とよびます。

・酸棗仁(サンソウニン):クロウメモドキ科サネブトナツメの種子
・遠志(オンジ):ヒメハギ科のイトヒメハギの根または根皮
・竜眼肉(リュウガンニク):ムクロジ科のリュウガンの果肉

遠志は血糖管理マーカの1,5-AGが高くなることがあるので糖尿病の方は、医師に帰脾湯・加味帰脾湯を服用していることをお伝えしておきましょう。他の漢方処方(薬局製剤)では、人参養栄湯、加味温胆湯にも遠志が配合されています。(注;この処方を服用しても糖尿病が悪化することはありません。)

他に、当帰、黄耆、木香(加味帰脾湯は、さらに柴胡、山梔子、牡丹皮)が配合されていますが、それぞれの役割は
・黄耆(オウギ):人参、白朮、大棗と同様に脾胃を元気にする生薬。
・当帰(トウキ):血を補う代表生薬。
・木香(モッコウ):行気薬(こうきやく)という種類で、気の巡りを助けておなかの張りや食欲不振、悪心嘔吐の改善に作用します。

もの忘れにも効果がある

元来、帰脾湯は「心血」不足による、動悸や健忘症に用いられてきた処方です。その中心となる生薬は「遠志(おんじ)」、古来より物忘れなどに効果があるとされ,生薬名は「志を遠くする病気に効果を示す」という意味で名づけられたといわれています。

遠志に認知改善の効果がありますが、中医学的には「心血」の不足が原因なので、遠志だけを服用するのではなく、大本である体質から改善することをお勧めいたします。

加味帰脾湯の思い出

私にとって、加味帰脾湯はとても思い出のある処方のひとつです。
漢方薬局に勤め始めて3年目に、20代女性の不眠症のお悩み相談を受けました。専門職でかなりのストレスとご自身の将来に対するお悩みとで睡眠障害となってしまいました。

煎じ薬の加味帰脾湯をお渡しして、翌日うまく煎じることができたかどうか確認し、2週間後の体調の確認で電話した時に「服用してから3日目から眠れるようになっている」というのです。

漢方薬がそんなに早く効くわけがないと思うかもしれませんが、スポーツでは心技体が一つになることが大切といいますが、健康改善も「心」「体」「薬」がとても良いバランスでかみ合った時には、思いもよらない効果があらわれるものです。