漢方薬の選び方#2-1「病邪と体質」

漢方薬の選び方#2-1「病邪と体質」

前回までのおさらい
#1「漢方治療の考え方」
「漢方治療(漢方処方)は、病名や症状に対して考えるのではなく、病気や症状を引き起こしている体質や原因(病邪など)を改善することを目標としている」
繰り返しになりますが、漢方医学では個別の体質を詳しく分析する必要があるため、問診・カウンセリングを重要視しています。

さて今回は、病気や症状を引き起こす原因についてお話していきます。

病邪とは

病気を引き起こす原因を漢方医学では「病因(びょういん)」といいます。
「病因」には、外因・内因・不内外因や外感・内傷論などと区分がありますが、ここではわかりやすくご紹介いたします。

まず病気を引き起こす原因となるものの一つを「病邪」と言い、6種類あるため私たちは通常「六淫(りくいん)」と呼んでいます。

漢方医学では、自然界に表れる変化や現象である「風(ふう)」「寒(かん)」「暑(しょ)」「湿(しつ)」「燥(そう)」「火(か)・熱(ねつ)」を「六気(ろっき)」と呼びます。六気は季節や地域性によってさまざま変化しますが、これらが身体に作用して健康に影響を与え病気を引き起こす状況になるとそれぞれ「邪」となり、「風邪(ふうじゃ)」「寒邪(かんじゃ)」「暑邪(しょじゃ)」「湿邪(しつじゃ)」「燥邪(そうじゃ)」「火邪(かじゃ)・熱邪(ねつじゃ)」となります。これらのことを「六淫」と呼んでいます。

六淫は外因という外部から身体に悪影響を及ぼす「邪」となりますが、外からの邪気の性質に似た症状が身体の内側にも発生するのですがこれを「内生の邪」と呼びます。

六淫による病状の多くは急性症状で、内生の邪による病状の多くは慢性症状と区別しておくとわかりやすいと思います。また、六淫が慢性病を悪化させる要素として働くことがよくあります。

ここでは、六淫の特徴(イメージ)をつかむことと関係する五臓についてご紹介します。

漢方中医学をスムーズに理解するコツとしては、自然界に存在している現象が身体に現れるため、からだに現れる症状が、自然界の中ではどのようなものに類するのかをイメージできるようにすることです。

風邪(ふうじゃ)

(※中医学では、風邪と記載されていると、「ふうじゃ」と読みます。「カゼ」とは読みません。「カゼ」は「感冒」または「感染症」などと記載します。)
風邪は、気まぐれで変化に富んでいます。わずかな隙間からでも侵入して全体に広がる。上方に舞い上がっていく。などの性質があります。身体に作用した時の病状の代表的なものは『感冒』。感冒にかかると寒気・悪寒が起こり、その後のどの痛みや発熱、鼻水などの症状に変化し、時に高熱、咳、痰と様々な変化をもたらす特徴があります。

今説明している「風」は外風といって身体の外から侵入しようとしている邪のことですが、体調の変化によって身体の内側から風邪の性質をもった症状が現れることがあります。その場合の症状は、身体の中で風が吹いているとイメージしてみるとよいと思います。その主な症状は、めまい、ふらつき、こわばり、しびれ、痛みが移動する、体調の変化が激しい、季節の変わり目(春・秋)に病状が悪くなるといった特徴があります。これらを「内風(ないふう)」といいます。

漢方相談で内風の症状は多く見受けられます。内風は五臓の肝の働きに乱れが生じたときに現れやすい症状です。春先や秋の気候の変化の時・風の強い日に体調が悪くなりやすい方は、風邪の影響を受けやすい体質であるか内風が発生している状態であると考えられます。

寒邪(かんじゃ)

寒邪は、皆さんのイメージ通り身体を冷やす作用を持つ「邪」です。寒い日に長時間外にいた場合どうなるでしょうか、身体が冷える、サラサラの鼻水が出る、関節に痛みを感じる、血流が悪くなるとしびれるなどの変化をもたらし、温めると症状が楽になります。

寒邪も風邪と同じく「内寒(ないかん)」という身体の中から生まれる「寒邪」があります。主に身体を温める「陽気」の不足から発生し、五臓の「腎」と深いかかわりがあります。

夜間尿、頻尿、冷え性、むくみ、腰痛、関節痛、冬に悪化しやすいなどの方は、寒邪の影響を受けやすいので腰回りを温め、冷たい食べ物を避けるなど気を付けておきましょう。

暑邪(しょじゃ)

夏に特徴的な邪気で「暑熱(しょねつ)」ともいいます。暑邪が身体に影響して現れる症状は発汗、のどの渇き、疲労、眠りが浅い、寝付けない、食欲不振など、暑邪は風邪や寒邪と違い身体の内側からは発生しませんので、夏の暑さによる体調不良が暑邪によるものだと理解していただいてよいと思います。

湿邪(しつじゃ)

湿気、湿度、湿疹といった言葉のとおり、湿邪は水分を多く含んだもので、重い、粘る、下方に現れる、消化器系の働きを停滞させるといった性質があります。湿は五臓の脾と深いかかわりがあります。

湿邪は脾胃(消化器系)の働きを悪くしやすく、脾胃の働きが悪くなると内湿を発生させるため、下痢しやすい、食欲不振、めまい、不眠、倦怠感、頭重などの症状が現れやすくなります。

湿邪は、熱邪と組み合わさることで、湿熱の邪となり、水泡のできる湿疹、ジュクジュクする皮膚病で治りが悪い、濃い鼻汁がでる、膀胱炎、尿道炎などが発生します。

燥邪(そうじゃ)

乾燥の燥ですので、乾かす働きの特徴があります。皮膚の乾燥、のど・鼻・肺などの呼吸器系の器官や粘膜の乾燥、便秘などの症状が特徴で、温めると悪化する性質があり、五臓の肺とかかわりがあります。

火邪(かじゃ)・熱邪(ねつじゃ)

火(熱)邪は発熱やほてりが起こり、冷たいものを欲しがる、温めると悪化する、暑邪のような季節性はあまりありません。上半身や頭部に症状が現れやすい性質があります。火(熱)邪は体内の潤いや水分を減少させる働きがあるためのどの渇きや、尿量の減少、便秘などが現れます。皮膚の赤みやかゆみ、赤味の強い痛いニキビ、出血、腫れや痛みも火(熱)邪が原因の一つです。五臓では心とかかわりがあります。


六淫のそれぞれの特徴をご紹介いたしました。気候の変動や特定の季節に病状が悪化しやすい方は、どの六淫が身体に影響しやすいのかを考えてみましょう。そうすると、自分の弱い五臓が見えてきます。

次回は 漢方薬の選び方#2-2「病邪と体質」と題して、体質(五臓・気血水)についてご紹介いたします。