漢方薬の選び方#2-2「体質(五行表・五臓・気血水)」

漢方薬の選び方#2-1「病邪」の続きです。
漢方薬を選ぶためには、状態(病邪など)や体質をしっかり分析することが大切です。
今回は、その「体質」についてお話いたします。
体質とは
私たちは、風邪や糖尿病、高血圧、慢性胃炎、便秘、肌荒れなどの悩みがあっても、胃腸虚弱な方、お酒を飲まない方、肥満傾向の方、痩せている方など生活習慣や体質の違いがあります。
個々の身体の状態や特徴を「体質」といい、漢方医学では主に「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」「気血水(きけつすい)」の働き具合を見分けることで漢方薬・治療方針を決定しています。
五臓の働きや気血水のくわしい役割については、次の講座から学べるようにいたします。
ここでは、五臓の働きが身体のどこに現れやすいのか、どのような自然現象とかかわりがあるのかを覚えていきましょう。
五臓の違いによる体質の特徴
五臓六腑は、人間の身体を構成する内臓全体のことで、五臓は「肝・心・脾・肺・腎」の5種類で後述する「気血水」などの栄養物質をつくり出し、それを蓄える働きがあります。
知っておきたい五行色体表
五臓の一つ一つについて理解していくこともできますが、漢方薬を選ぶときには他の臓との関連性について考えなくてはいけないので、「五行表」から覚えていきましょう。これを知らずに身体に合った漢方薬を選択することはできません。
五臓 | 五腑 | 五体 | 五行 | 五官 | 五華 | 五情 | 五気 | 五色 | 五季 |
肝 | 胆 | 筋 | 木 | 目 | 爪 | 怒 | 風 | 青 | 春 |
心 | 小腸 | 血脈 | 火 | 舌 | 顔色 | 喜 | 熱 | 赤 | 夏 |
脾 | 胃 | 筋肉 | 土 | 口 | 唇 | 思 | 湿 | 黄 | 長夏 |
肺 | 大腸 | 皮毛 | 金 | 鼻 | うぶ毛 | 悲・憂 | 燥 | 白 | 秋 |
腎 | 膀胱 | 骨髄 | 水 | 耳 | 髪 | 驚・恐 | 寒 | 黒 | 冬 |
漢方処方を選ぶためには、「五臓弁証」「気血水弁証」という体質の特徴を決定する診断が必要です。
例えば、不眠症のご相談の場合、関連しやすい五臓は「肝と心」「心と腎」「肝と脾」「脾と腎」「肝と腎」などがあるのですが、その方の体質から胃腸障害がある場合は「脾」、ストレスや月経不順などがある場合は「肝」、動悸やほてりがある場合は「心」、夜間尿、高齢者の場合は「腎」などとそれぞれ関連を探ることが大切です。
関連する五臓がどこなのかを知る方法の一つが「五行表」です。私がこれを覚える方法として「肝・心・脾・肺・腎」の並び順に、五行は「木・火・土・金・水(もっかどごんすい)」、五腑は「胆・小腸・胃・大腸・膀胱」と覚えていきました。また、五気は前回の病邪と関連があるので五臓と病邪との関係性をもう一度復習しておきましょう。
五臓:気血水のエネルギーの貯蔵場所
慢性病の場合、体調が悪いのは「気血水」がどこかの臓腑で不足していると考えます。五臓のエネルギーが不足すると関連するところに病状があらわれてきます。
五腑:飲食物を消化して排泄・運搬する場所
五臓六腑なので本来は腑は「六つ」必要で、最後の一つは「三焦(さんしょう)」と呼び水分の通り道で臓器のような実態があるわけではありません。
五体:五臓から栄養を補う場所(血脈とは気血の通り道)
筋は、すじや腱などのことで、肝の調子が乱れると関節の曲げ伸ばしや、筋肉のけいれん、しびれなどが起こります。
五官:関係の深い感覚器官
五華:五臓の「気」の状態が現れる場所
五情:五臓の乱れと関連のある感情
問診の際の話すスピードや口調などからも感情を分析し、乱れた五臓を考えます。性格とも関連があり、例えば「肝」の働きに乱れがあると、怒りっぽい、いらいらしやすい、気が短いとなりますが、「肝」の働きが整うと、気持ちに余裕がでてきて穏やかな性格になります。
五気:五臓を乱す原因となる外気
お悩みと六淫との関連は重要。
五色:顔色によって乱れている五臓を推測
五季:五臓の乱れが発生しやすい季節
ほとんどの疾患で気候・季節・気圧による変動を確認することが大切です。春に体調を乱しやすいのは「肝」の乱れ、秋に体調を乱しやすいのは「肺」となりますが「肝」も関係しています。
これは五気の「風」と関連していて、春の風といえば「春一番」。秋の風といえば「木枯らし」。と春・秋に体調を乱しやすいのは「風」と関連があるとみることもできます。
漢方医学では、血液検査などの数値やデータを用いる診断や分析を行わない代わりに、五行表のように、患者さんの主になるお悩みのほか、体質の特徴を細かくお伺いして分析・整理することで、乱れた五臓を診断し、整えることで体質を改善するサポートをしていきます。
漢方医学を学ぶために必要なこととして、固定観念を持たないようにすることです。五行表では関連性を固定しているように見えますが、五臓それぞれの乱れは他の臓腑に影響を与えるため、おもてに現れている症状だけで結論を出すのではなく、治療をしていく中で様々なケースを考えておくことが大切です。
気血水とは
漢方医学を学ぶ順番として「気血水」から学ぶのが一般的ですが、身体に現れやすい状態や変化をイメージしてからのほうが「気血水」を理解しやすいと考えています。
気
私たちの身体を動かすための大切なエネルギー。
「気」と表現されるものの多くは目に見えないものがほとんどです。空気・電気・根気・元気・気力など
他、水蒸気の気は目に見えているようですが、見えているのは水のほうですね。
また、気を使った慣用句など多くを皆さん使われています。
「気が合う」「気分がいい」「気が滅入る」「気持ちいい」「弱気になる」「強気に出る」「和気藹々」など
何気なく、「気」という単語を使用していますが、自然と自分の中の気の状態や自然界での気の変化や働きを理解して使っています。
漢方診断の時も「気」の状態が元気がいいのか、悪いのか、流れが良いのか、流れに乱れはないのか、他と調和がとれているのかなど感じ取れる部分は診断の時に大切です。
次に、気の働きで知っておかなければならない5つをご紹介します。覚え方は、推動・温煦・防御・気化・固摂(すいどう・おんく・ぼうぎょ・きか・こせつ)と呪文のように覚えましょう。
推動作用(すいどうさよう)
気は、血や水、排せつ物などを動かして全身を循環させています。この働きを「推動作用」と呼んでいます。推動作用が弱くなると血流が悪くなる・むくみやすくなる・疲労・排尿障害・発汗異常など「血水」の循環異常があらわれます。
温煦作用(おんくさよう)
身体を温める働き、無理なダイエットをして、身体が冷えやすくなりますがエネルギーの補給がないため、気が不足して身体を温める働きが低下した状態です。また、「腎」と関連が深く「腎気」の低下によって冷え、頻尿、夜間尿、むくみなどが起こりやすくなります。
防御作用(ぼうぎょさよう)
身体の表面や粘膜を覆っている「衛気(えき)」の働きの一部で防御作用といいます。身体の表面や粘膜で外部からの邪(六淫)の侵入を防ぐ働きです。この働きが低下すると、感染症や粘膜の炎症などが発生しやすくなります。風邪予防には「衛気」を補うことが大切です。風邪が治りにくい、傷が化膿しやすいのは「衛気」の不足が原因の一つと考えられます
気化作用(きかさよう)
気は、生まれ持って備わっている「気(先天の気)」と飲食物や呼吸によって補う「気(後天の気)」とあります。飲食物はそのままではエネルギーとして利用できませんので、身体の中で気血水精に変化させる必要があります。その働きを気化作用と呼んでいます。また、血が精に、津液が血にと他のエネルギーへの変化も気の働きです。
固摂作用(こせつさよう)
血水精が身体の中をめぐる時や貯蔵される場所では必要とされる時以外に、外に漏れ出ないように管理する必要があります。例えば、出血、汗、尿、精などの不必要に漏れ出ている状態は固摂作用の低下と考えます。また、内臓が特定の位置にとどまっている状態も固摂作用によるものなので、胃下垂、遊走腎、脱肛、子宮脱などは固摂作用の低下が原因の一つと考えます。対策として「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」という漢方薬が第一選択薬となります。
血(けつ)
血について、
「西洋医学の「血液」のことですか」
「血虚(けっきょ)と言われましたが、健康診断では貧血と言われていません。」
と聞かれることがあります。
漢方医学では「血」は
・栄養物質
・栄養を運搬するもの
なので、「血液」と一緒ではあるのですが、漢方医学では「血」は精神的な活動である思考・判断・感情などの栄養源でもあると考えています。また、気の気化作用によって、血は気にも精にもなるため気・精の不足は血の不足が関係することがあります。
次に、「血虚」が貧血と同じでないと考えるのは、「血虚」とはただ単に「血」の量が不足している状態ということではなく「働きが不足している状態」のことを指しています。健康診断で貧血がなくても、「血虚」に該当する症状や関連する五臓の乱れがあれば「血虚」と診断します。
水(すい)
水は中医学では本来「津液(しんえき)」と表現します。ですが身体に必要な水分のことなので「水」とよびます。唾液・胃液・鼻水・汗・尿・関節液など、身体から分泌されるもの、身体を潤す作用のものを「水」と呼びます。
水と血は「陰」、気は「陽」と陰陽の区別があります。
精(せい)
生命の源を「精」。腎に蓄えられているため「腎精(じんせい)」と呼んでいます。精は生殖器と深く関連する物質で成長や老化とともに増減し身体や機能を変化させていきます。
精力減退というのは、腎精の衰えのことなので、対策としては「腎精」を補う「補腎精」の漢方薬が主に使用されます。
気血水精は互いに、相互依存の関係でもあるため、一つでも働きが低下すると他方へも影響が出てきます。気血水の働きや五臓との関連は次の講座でご紹介します。
今回は、覚えることがたくさんありますがイメージすることがとても大切です。自然界の現象や変化と五臓を関連付けて覚えてみてください。
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