漢方薬の選び方#3 気血の病態

漢方薬の選び方#3 気血の病態

前回までは、気血水精の役割や働きについてご紹介いたしました。今回は、気血水の働きが悪くなるとどのような症状があらわれてくるのかを説明いたします。

気血水の不調は、「不足」「滞り」が中心となります。

気の働きが乱れると

気は、身体を動かすためのエネルギー。

気虚(ききょ)

気(エネルギー)の不足を「気虚(ききょ)」といいます。

具体的な症状は、
疲れやすい、息切れがする、気力低下、倦怠感、顔色が悪い、声に力がない、食欲不振、便がゆるい、尿の色が薄い、少し動いても汗が出る、風邪ひきやすい、風邪の治りがわるい

気は病気と闘うためのエネルギーでもありますので、慢性病を抱えている方の多くは「気虚」が必ずあります。また、慢性病がなくても疲れやすい、倦怠感がある場合には、消化器系である「脾胃」の働き又は呼吸器系の「肺」の働きが弱っています。

年とともに疲れやすい、頻尿、冷えといった症状が強くなっている場合には、「腎」の働きが低下していると考えられます。

(対策)
気虚を改善する漢方薬を「補気剤(ほきざい)」と分類します。代表処方に補中益気湯・六君子湯などがありますが、胃腸・消化器系の働きを整えることが中心となります。

身体を動かすエネルギー補充の大半は、飲食物から得られるエネルギーです。食べているのに力が出ないのは飲食物から必要なエネルギーを吸収できていないと考えます。

□よく噛まないで食べてしまう
□偏った食事が多い
□食事の時間が不規則
□夕食を食べた後2時間以内に床にはいる
□いつも便がゆるい、排便がスッキリしない
□食後ねむくなる

などに多くあてはまる方は、生活習慣リズムを見直して
・腹8分
・就寝3時間前までに食事を終わらせる
・良く咀嚼する
・過剰な糖質摂取を控える
ことをお勧めいたします。

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気滞(きたい)

気の滞りを「気滞」といいます。気は常に安定したリズムで流れていることを好みます。自分のテンポと考えることもできます。例えば、歩くスピードや話すスピードなど、「良く気の合う友達」とか「気心知れた」などは、気のリズムやテンポが似ている場合に使われます。

そのリズムやテンポが乱れた状態を「気滞」と考えることができます。
気の合わない人といるときは、そわそわしたり、イライラしたり、集中できなかったりしませんか。それが気滞症状です。他には、急激な気候の変動やケガ、精神的ストレス、重労働などによって引き起こされる状態も気滞です。

気の流れのコントロールは主に五臓の「肝」で行われるのですが、「肝」は自律神経系と深くかかわっているため様々な変化に対する適応能力に乱れが生じると気滞が発生しやすいと考えます。

具体的な症状は
げっぷが多い、ガスが多い、おなかが張る、胸苦しい、のどがつかえる、イライラ、憂鬱など

この気滞症状は、血の滞りである「瘀血(おけつ)」を引き起こしやすく、頭痛、肩こり、月経痛、あざ、冷え、のぼせなどの症状があらわれてきます。

様々なストレス(精神的・肉体的・自然環境変化など)は、生きている限り必ずあります。
ストレスを感じることができるために、ストレスの大きさに応じた適応反応(ストレスを打ち消す)ができます。そのため、ストレスを認識・認知することがとても大切なことがわかります。

自覚できていないストレスはやがて身体のリズムを乱し、体調を乱していくきっかけとなってしまいます。ストレスは悪いのもではなくしっかり認識して対処することが大切なのです。

気滞を改善させる漢方薬は、理気剤・和解剤といった種類を良く使用します。代表処方としては香蘇散、四逆散、逍遥散などですが、気滞があると瘀血や水滞といった病態も発生しやすいため、他の症状を考えて処方することが大切です。

血が乱れると

血虚(けっきょ)

血は、栄養を運ぶエネルギー物質と精神を安定させる物質です。その血が不足している状態や働きが低下している状態を「血虚」といいます。

具体的な症状は、
顔色が悪い、皮膚の乾燥、爪がもろい、目のかすみ、立ちくらみ、しびれ、こわばり、けいれん、ふるえ、睡眠障害、気力低下、無気力、不安感、物忘れ、冷え、月経不順

血の不足の原因の多くは、血の生成不足や貯蔵力の低下、循環力の低下が考えられます。
□食事の偏り(無理なダイエット)
□多量の出血
□気虚
□冷え
□運動不足
□薬の飲みすぎ
などがあり場合には注意が必要です。

血虚と貧血

いつも聞かれるのですが、貧血と血虚の違いについて
貧血は、血液検査での数値に異常がある場合。
血虚は、上記のような症状がある場合。
つまり、検査値での異常の有無にかかわらず、身体に不安定な状態があれば血虚であると考えます。

検査値で異常がないからと言って安心してはいけません。身体の健康の基準は自覚症状をもって行うようにいたしましょう。

気虚があれば血虚も

気虚があると血の生成も悪くなります。逆に血虚であると気虚が必ずあると考えますので、両方ある場合を気血両虚(きけつりょうきょ)といいます。

うつ病や起立性調整障害

うつ病や起立性調整障害は「血虚」が主な原因と考えられます。血は栄養を運び、ホルモンや自律神経の働きが円滑に進むように働いています。その働きが低下してしまうとホルモンや自律神経が正常に働かなくなるためうつ病や起立性調整障害、不眠症などがあらわれてしまいます。

血虚(けっきょ)って何だろう

血虚を改善する漢方薬

血虚を改善させる漢方薬を補血剤といいますが、前述したように血の不足は気の不足も伴うため、気血の両方を補う「気血双補(きけつそうほ)」という改善方法が一般的です。当然ながら自覚症状を見て、消化器系が悪い場合には、六君子湯や補中益気湯のような消化器系を整える漢方薬から優先して使用します。血を補う代表処方は、婦宝当帰膠、四物湯、十全大補湯などがあります。

瘀血(おけつ)

血の滞りを瘀血といいます。血が滞る原因の多くは血を循環させるエネルギーである気の滞り「気滞」にあります。その状態を、気滞瘀血(きたいおけつ)と表現されます。また、気滞の原因に瘀血があるため、瘀血があれば気滞もあると考えておきましょう。

瘀血を改善する代表処方は、血府逐瘀湯、冠元顆粒、通導散などがあります。

瘀血は万病のもと

瘀血は、癌や高血圧、糖尿病、腎臓病、心臓病、動脈硬化など生命にかかわる疾患の原因のひとつでもあります。瘀血を予防・改善することは健康を維持するために、身体を動かす、食事をするのと同じくらい大切だと考えています。

瘀血の予防としてお勧めしている漢方薬は、私も毎日服用している「冠元顆粒(かんげんかりゅう)」。

 

瘀血(おけつ)度チェック

水・精については、また別の回でご紹介させていただきます。