使用目的から見る西洋薬と漢方薬の違い
西洋薬と漢方薬の違いについて質問を受けることが多いので、違いについて使用目的からの比較をまとめてみました。少しでも参考になれば幸いです。
薬の使用目的から比較
薬を使用して治療を行うことを薬物療法といいます。
薬物療法では4つの目的があります。
①原因療法:病気の原因となっているものを取り除く
②補充療法:体に必要な物質を補充する
③対症療法:原因は改善できないが、身体が不快・苦痛と感じる症状を抑える
④予防療法:病気の発現を予防
4つの目的から西洋薬と漢方薬の考え方の違いを見ていきましょう。
西洋薬 | 漢方薬 | |
原因療法 | 代表的な薬は「抗生物質」細菌を取り除くことを目的としています。菌に対して直接作用し菌の増殖を抑えてくれます。 | 病邪(びょうじゃ)と呼ばれる身体に災いをもたらしているものを取り除く。袪邪(きょじゃ)療法とも言います。身体の生理現象(発汗、排尿、排便、解毒など)を活用して、邪を取り除きます。 |
補充療法 | ビタミン剤やホルモン剤など、身体に不足しているホルモンや栄養を直接補う薬物を使用します。 | 身体に必要な「気・血・水・精」を補い、心身・五臓の機能を助けます。そのような薬物を、補気剤、補血剤、補陰剤などと呼んでいます。 |
対症療法 | 解熱剤、血圧降下剤、鎮咳剤、鎮痛剤など、原因は改善できないが症状を一時的に抑え、コントロールする方法。 | こむら返りに「芍薬甘草湯」、しゃっくりに「柿蒂湯」など、頓服的に用いる方法。長期服用に向いていない処方。根本的な解決は、漢方薬の原因療法・補充療法が必要。 |
予防療法 | ポリオ、日本脳炎、BCG、インフルエンザ、コロナなどワクチンは、病原体を体内に入れて免疫を付けることで、ウイルスや細菌に感染して後遺症や重い症状を引き起こすことを防ぎます。 | 漢方薬の「補充療法」と同じ。 身体は本来健康で安定した状態を維持できるものですが、生活習慣、環境、精神の乱れや蓄積が原因として心身を安定した状態に維持できなくなるのを、漢方薬によって安定を維持できるように整え、助ける方法。漢方養生法 |
薬は手段であって解決策ではない
「薬は手段であって解決策ではない」と、洋画をよく見る私は何度このセリフを違う作品で聞いたことでしょうか。
洋画ですので、ここで薬と言っているのは西洋薬のこと。西洋文化で中医学の哲学・概念が広まれば、映画の中でのセリフが変わってくるかもしれません。(脱線しました・・・・。)
そう、前述の薬の目的からも薬剤の薬理作用からも
◆西洋薬はそのものが、症状の鎮静化・安定した状態を目的としています。
・かゆみを止める
・痛みを止める
・血管の収縮を抑える
・尿の排泄を促進させる
・睡眠を誘発させる
・脳内物質の再吸収を妨げる
・炎症を抑える
・血液凝固を抑制
などどれも病気の原因ではなく、その結果に対して抑えていくことを目的としています。いわゆる「対症療法」です。
◆一方、漢方薬は生理機能をうまく利用して、一人ひとりの体質・個人差によって治療することを目的にしています。
そのため、漢方薬療法を「体質改善」「随証治療」と呼びます。
西洋薬、漢方薬の融合治療
近年、漢方薬は保険医療機関で健康保険薬として利用されることが多くなったことは、漢方薬の普及としてとても喜ばしいことではありますが、一つだけ懸念されることがあります。
それは、漢方薬の使用目的を西洋薬のそれと同じように患者さんに伝わっていないかどうかです。
西洋薬の場合、多くのお薬は「対症療法」です。
漢方薬を「対症療法」として使用するのは、便秘、こむら返りやしゃっくりのように頓服的に(一時的に)症状を緩和することを目的としています。
ところが、他の漢方処方も頓服薬と同様に病名や病状を頼りに対症療法として服用させてしまうと当然ながら西洋薬の効き目よりも劣っていることがわかりますし、頓服的に使用する漢方薬を漠然と長期的に服用させ続けることで、漢方薬の副作用の発現が高まります。
西洋薬と漢方薬とは互いにメリット・デメリットがはっきりと異なっています。
そのためにも、
・西洋薬でできること
・漢方薬でできること
・その違いなど
を周知させ認知していただくことが、患者さんに健康になってもらう手助けができると考えています。
西洋薬の対症療法が必要なわけ
西洋薬治療は「対症療法」です。
しかし、ただ単に症状を抑えることを目的としているのではないことを理解してください。
血圧降下剤は、血圧を下げてくれますが高血圧の原因を治療してくれません。服用を続けていくことを前提としています。
その理由が、東京女子医科大学東京病院、腎臓病医療総合センターのサイトで簡潔に説明してくれています。
高血圧の治療目的は
高血圧の最終的な治療目的は脳卒中や心不全などの二次的疾患を予防し、生命予後を改善することにあります。
https://www.twmu.ac.jp/NEP/kouaturyouhou/kouaturyouhou-chiryoumokuteki.html
(腎臓内科<東京女子医科大学東京病院<腎臓病医療総合センターより引用)
融合治療の魅力
つまり、二次災害・病状の悪化を防ぐことが西洋薬の最大の利点であるのです。
しかし、注意していただきたいのは、西洋薬はあくまでも悪化することを防ぎ、不快な症状のストレスを緩和することで、治療の手助けをしています。薬に頼りすぎてしまうと本来の自分の生理機能を弱めてしまい、よくなるどころか悪化してしまう可能性があります。
よくある例が、便秘薬・鎮痛剤・安定剤・睡眠薬など同じお薬を使い続けることで、段々と効き目が弱くなっていくといわれますが、私の考えでは薬の効き目が弱くなったのではなく、自分自身の治療する力(自然治癒力)の低下や精神(薬への心の依存)が原因し、今まで少し手助けをしてくれていた薬だけでは物足りなくなってきてしまうのです。
そこで、漢方薬との融合治療が注目されているのです。
漢方薬は、一人ひとりの体質や体格、生活習慣を考慮し、病気になってしまった原因である体質の弱い部分を補い、原因となる「邪」がある場合にはそれを除き、根本的な治療をサポートしていきます。
時には、西洋薬の副作用を防止する役割もあり、西洋薬の不得意とするところをしっかりカバーしてくれます。
西洋薬を服用し続けることへの依存が心配で漢方相談に来られる患者さんが増えてきましたが、西洋薬は病状の安定をもたらしてくれていますので、急にやめないようにしてください。漢方薬との併用で身体がしっかりしてきたら医師に薬の変更や減薬を相談してください。
西洋薬と漢方薬の違いについて少しでもご理解いただければ幸いです。
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