加味逍遥散・当帰芍薬散・桂枝茯苓丸の違い

加味逍遥散・当帰芍薬散・桂枝茯苓丸の違い

婦人科疾患によく使用される「加味逍遥散」「当帰芍薬散」「桂枝茯苓丸」がありますが、それぞれの違いについてご紹介させていただきます。

配合生薬を比較

まずは配合生薬の比較をしていきましょう。( )内は薬局製剤(煎じ薬)の配合分量。
それぞれの処方名の最後に「料」と記載しているのは、本来ならば「散(原末)」「丸(原末)」で調合するのですが、それを煎じる場合には処方名の最後に「料」と記載されます。もともと煎じて服用するように指示のある処方は、葛根湯、帰脾湯と最後に「湯」と記載され、「丸」と書いてあるのは、原末を蜂蜜で丸薬とする、顆粒や細粒で製造している場合には、加味逍遥散エキス顆粒や当帰芍薬散エキス細粒などと処方名の最後に剤型が記載しています。

生薬名 加味逍遥散料 当帰芍薬散料 桂枝茯苓丸料
トウキ
(3g)

(3g)
×
ビャクジュツ
(3g)

(4g)
×
シャクヤク
(3g)

(6g)

(4g)
ブクリョウ
(3g)

(4g)

(4g)
タクシャ ×
(4g)
×
センキュウ ×
(3g)
×
ケイヒ × ×
(4g)
トウニン × ×
(4g)
ボタンピ
(2g)
×
(4g)
サイコ
(3g)
× ×
サンシシ
(2g)
× ×
カンゾウ
(1.5g)
× ×
ショウキョウ
(1g)
× ×
ハッカ
(1g)
× ×

各処方の解説

加味逍遥散

加味逍遥散は、逍遥散という処方に「山梔子」「牡丹皮」を加えた処方。
五臓六腑の調和・陰陽バランスを整える「和解剤(わかいざい)」に分類されています。
加味逍遥散は他の2処方にはない「柴胡(サイコ)」という生薬が配合されています。「柴胡」は五臓の「肝」の調和をとる働きがあり、「肝」に負担がかかった状態を緩和してくれます。具体的には、『ストレス』の緩和・自律神経の調整・ホルモンの調整

処方構成ワンポイント
柴胡は芍薬と配合することによって精神的ストレスによるイライラ、緊張、不安、憂鬱などの改善に効果を発揮します。
その基本となる処方が「四逆散(柴胡、芍薬、枳実、甘草)」です。
そして、芍薬と甘草を組み合わせることによってこむら返りに有名な「芍薬甘草湯」となり平滑筋、骨格筋のけいれん性疼痛を緩和します。
 
 

心身にストレスが加わりそれがうまく解消できない状態を中医学では「肝気鬱結(かんきうっけつ)」といいます。
「肝」は気血の巡りを調整し、自律神経やホルモンの働きも調整する大切な臓です。
そのため、肝の働きが乱れて気血がうまく巡らなくなると、イライラ、便秘、肩こり、頭痛、ガスが多くなる、腹満、冷えなどの症状があらわれます。
特に更年期、月経前など「血」の働きが乱れやすい時期や冷えによって「血」の流れが悪くなると、「肝」の働きが悪い人は、更年期障害・PMSなどがあらわれやすくなります。

そのため、加味逍遥散は
・血の巡りの悪く、普段から頭痛、肩こり、冷え、肌荒れなどの症状がある
・心身のストレスがうまく解消できない
・ホルモンのバランスが乱れやすい時期(月経期・更年期)
に様々な身体症状を引き起こしている場合に適した処方です。

 

【漢方処方解説】加味逍遥散料

当帰芍薬散

当帰芍薬散は、金匱要略に「婦人の妊娠時の腹痛」に用いると記載されています。
その処方の特徴は、

生薬「沢瀉(タクシャ)」の配合。沢瀉は利水滲湿薬(りすいしんしつやく)に分類され、「水」の巡りを調整するので、浮腫、小便不利、泄瀉などに効果があります。

また、「補血剤」の代表である「四物湯(当帰、芍薬、川芎、地黄)」のうちの3つ、当帰・芍薬・川芎が配合されているため、「血虚(けっきょ)」の改善に対して作られた処方としてみることもできます。

血虚の改善と水の巡りの改善が合わさった処方なので、当帰芍薬散は
・むくみやめまい、ふらつき、下痢など「水」の巡りが悪く
・血虚体質、色白で疲れやすく、貧血傾向にあり、経血が少ないあるいは無月経
・精神不安やうつ傾向、不眠などの精神症状(血は、ホルモンの働きだけではなく精神の安定作用もあるため血虚は精神疾患を起こしやすい)がある場合に適した処方です。

血虚(けっきょ)って何だろう?/女性特有の病気の原因の多くは「血虚」が関係しています。

桂枝茯苓丸

桂枝茯苓丸は、活血化瘀剤(かっけつかおざい)に分類され、「瘀血(おけつ)」を改善する処方に分類します。
そのために配合されているのが「芍薬」「桃仁」「牡丹皮」で、これらが血の巡りを促進していきます。

そして、「桂皮(ケイヒ)」が配合されることで毛細血管の巡りを促進し、冷えや充血、シミなどの改善に働きます。

特に下腹部(骨盤内、子宮内)の瘀血を改善するので、月経痛、月経時に血塊が多い、下腹部の張り、しこり、下半身の冷え・上半身のほてり、ホットフラッシュなどの症状に対して使用します。

中医処方であれば、瘀血に対して「血府逐瘀湯」「冠心Ⅱ号方」「桃紅四物湯」「芎帰調血飲」などを使用しますが、保健医療で使用される漢方薬の中では「桂枝茯苓丸」が瘀血の改善の第1選択となるのではないでしょうか。

 

瘀血(おけつ)度チェック

まとめ

それぞれの処方の特徴は何となくわかっていただけましたでしょうか。

最後にこれらを使用する場合の選択基準についてまとめます。

「瘀血」血の巡りが悪く、痛みやしこりがある場合。
桂枝茯苓丸>加味逍遥散>当帰芍薬散

「血虚」「水滞」血の不足・水の滞りがある場合。
当帰芍薬散>加味逍遥散
桂枝茯苓丸は、芍薬が補血薬でも血虚を改善する処方ではありませんので比較から外します。

「気滞」精神症状、特にストレスによるイライラ、緊張、不安がある場合。
加味逍遥散>当帰芍薬散>>>>>>(桂枝茯苓丸)

と使用頻度優劣をつけさせていただきました。
どれも同じような生薬を使用しているようでも、メインとなる生薬の働きが何かによって、改善させる目的が異なることが少しでもご理解いただければ幸いです。

今回この、まとめを行ったのは同業の薬剤師からの質問に対して、少しでも役に立てればと考えて作成させていただきました。
保健医療の現場では、やはり病名処方が中心となり随証治療には及んでいないのが現状と聞いていますが、調剤する薬剤師は病名で漢方処方を学ぶのではなく、証を少しでも学んで漢方処方を理解していただくことを望みます。

 

【漢方豆知識】気滞(きたい)について