心臓がどきどきする動悸(心悸)、脈の乱れを漢方で改善
中医学では動悸を心悸(シンキ)と言います。
動悸の原因となるものが明確な場合・・例えば緊張する場面の前、驚いてドキドキ、あこがれの人を前にしてドキドキなど
心拍は自律神経がコントロールしていますので、興奮すれば「脈拍」が速く・強くなり心臓の鼓動を感じます。
しかし、特に緊張もしていない、興奮もしていない、驚きもない、ゆったりと横になってリラックスしているのに脈が乱れたり、鼓動が強く感じることがあります。特定の病気からくることもありますが、検査をしても異常がないと医師から言われて当店にへ相談に来られます。
そんな、原因不明の動悸を漢方ではどのように考えて治療をするのかをご紹介いたします。
注意すべき動悸
動悸は、何らかの理由によって心臓が普段よりも速く・強く鼓動しているため、その拍動を自覚することで認識します。急激で強い鼓動は、原因となる物事に対しての生理反応ですから、心臓による正常な反応です。
しかし、次のような症状がある場合には、すぐに医療機関を受診してください。
・ふらつきまたは失神
・胸の痛みや圧迫感
・息切れ
・心拍数が1分間に120回以上または45回未満
・もともと心臓疾患のある方
・持病で医療機関を受診している方
心拍を調整する働き
心拍を調整する働きには、中医学では心の陽と陰がそれぞれアクセルとブレーキの役割をしていると考えています。
・心陽(アクセル):心拍数を亢進
・心陰(ブレーキ):心拍数の安定
また、それぞれの働きの強弱には主に臓の「肝」「腎」が関係しています。
・心陽(アクセル)の働きを高めるのは「肝」(五行の相生関係)
・心陰(ブレーキ)の働きを高めるのは「腎」(五行の相克関係)
動悸の症状が起こっている場所は「心」なのですが、「心」に症状があるからと言って「心」にだけ問題があるわけではありません。それが漢方治療の特徴で、身体全体(五臓)のバランスを診て総合的に整えていきます。
心悸
中医学では動悸を心悸と呼びます。
その発症の原因は、大きく分けて
・心気の不足(心虚胆怯)
・心血の不足(心血虚)
・心陰の不足(陰虚)
・心陽の不足(陽虚)
・水の停滞(水飲凌心)
・血の停滞(心血瘀阻)
のいずれかが原因であると考えます。
心気の不足(心虚胆怯)
・驚きやすい、不安感がある
・疲れやすく元気がない、胃腸が弱い、やせ型
・動くと動悸がひどくなる
五臓「心」の働きは、心拍動の安定、血流循環や意識、感情、思考、分析、判断などの精神的な活動を管理しています。その為、心虚という心の気が不足すると動悸、息切れ、不眠、不安、落ち着かないなどの症状が起こりやすくなります。
胆怯の「胆」は、胆汁貯蔵の働きと決断・勇気と深く関連しています。胆が健康であれば、肝と協調し必要としているときにしっかり決断できるのです。逆に胆が弱まると、決断力が低下し、精神が不安定となり、驚きやすく、不安、緊張、不眠となります。
このような方は、気を補う生薬を中心した漢方処方を選んでいきます。
もともとの基本的な体質が胃腸の弱い方なので、胃腸を整える漢方薬が中心になることが多いです。
【代表処方】養心湯、香砂六君子湯、補中益気湯
心血の不足(心血虚)
・虚弱体質、貧血、息切れ
・睡眠障害(寝付きが悪い、途中で目が覚める、眠りが浅い、夢が多い)
・不安
・めまい、頭のふらつき
・婦人では不正性器出血
心は「血脈」を調整しているため、心血不足は心の働きを補えなくなり動悸が発生します。特に筋力の弱い女性にこのタイプが多く何か不安を抱えてたり、眠れないでいるとより一層症状が強くなる傾向があります。
このような方は、血を補う生薬を中心とした漢方処方を選んでいきます。
血が少ない方は気も不足しているので、気血を同時に補える処方を使っていきます。
【代表処方】養心湯、帰脾湯、十全大補湯、人参養栄湯、婦宝当帰膠
心陰の不足(陰虚)
・睡眠障害(寝付きが悪い、途中で目が覚める、眠りが浅い、夢が多い)
・耳鳴り
・手足のほてり
・イライラ
・皮膚の乾燥
血水精など体液物質をまとめて「陰」と分類しています。血が不足している場合を「血虚」と言いますが、血の不足と同時に水精の働きも低下しているのであれば「陰虚(いんきょ)」と言います。
血虚と陰虚の違いは、陰は身体を潤し、余分な熱を冷ます働きがあるため、陰の不足は乾燥とほてりが特徴となります。さらに、心陰を助ける働きは「腎」にあるため、腎の働きの弱っている方がこのタイプに当てはまることが多くなります。
つまり、「腎」は成長と老化と関係していますので、高齢者がこのタイプに当てはまりやすくなります。
このような方は、陰を補う生薬、腎を補う生薬を構成した漢方処方を選択します。
自覚症状が血虚中心であれば前述の心陰の不足(陰虚)の処方に清熱作用のあるものを加えていきます。
【代表処方】天王補心丹、杞菊地黄丸、酸棗仁湯、加味帰脾湯、
また、夏場に心筋梗塞が多くなる傾向があるのは発汗によって陰が消耗し、血熱を冷ますことができなくなることによって血の粘度が高まりつまりや循環不良が引き起こされます。こんな時には生脈散(麦味参顆粒)を使用します。
心陽の不足(陽虚)
・手足の冷え
・病気を長く患っている方
・顔色が悪い
・食が細い
・しびれ、痛み
・頻尿、夜間尿
陽は身体を温める気の働きを指す意味がありますので、陽が不足している場合は、身体を温める働きが弱くなっている状態です。その影響から動悸を引き起こすと考えられています。例えば、冷たい水に入るときに、夏場プールの水シャワーを浴びるときに”ドキドキ”しますが、その生理反応が動悸となります。
体表面が冷えている方もいれば、身体を温める腎の働きが低下して冷えている場合もありますので、泌尿器系の悩みがあるかどうか不安や緊張が強いかどうか、婦人科系の乱れがあるかどうかなどで処方内容が異なってきます。
【代表処方】桂枝加竜骨牡蠣湯、牛車腎気丸、五積散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、温経湯
水の停滞(水飲凌心)
・めまい、立ちくらみ
・むくみ
・冷え
・水分を摂取した後で動くと胃がチャポチャポ音がしている(胃内停水)
・頭重
・耳鳴り
水は、他の血精同様に陰に分類されています。陰である水が停滞している状態を指しています。水が停滞する原因は様々ですが多くが冷えが関係しています。冷えである陽が不足すると、陰を温め蒸発させたり、循環させる働きが低下するために水の停滞を引き起こします。
身体を温め、水の排泄を促進させる生薬を配合した漢方処方を選択します。
【代表処方】苓桂朮甘湯、桂枝加苓朮附湯、真武湯
血の停滞(心血瘀阻)
・頭痛、肩こり
・高血圧
・あざができやすい、消えにくい
・イライラ
・月経痛、経血に塊が混じる
瘀血は、血の滞りで昔から万病の元と考えられています。
瘀血の発生原因の多くは精神的・肉体的なストレス、慢性化すると様々な病気の引き金となるため日々の対策・養生が大切となります。
瘀血を改善させる漢方処方を「活血化瘀剤(かっけつかおざい)」と言います。瘀血を改善させるだけでも養生となりますが、同時に瘀血を発生させる体質のクセや生活習慣なども改善が大切です。
【代表処方】冠元顆粒、血府逐瘀湯、桂枝茯苓丸
その他のタイプ
一般的に、上記に挙げた6つのタイプは基本であり、実際に6つのうちのどれかだけのタイプであると判断できる方は少ないと感じます。つまり、多くの方が複合タイプとなります。
その為、どこからどのようにして改善させていくのかの道筋をしっかり立てて症状・体質の改善を行うことが大切です。
自分に合った漢方薬を服用する際には、自分がどのようなタイプの体質であるのか、病状が出やすい要因がなんであるのかをしっかりと判断していただけるところで自分に合った漢方薬を選んでいただきましょう。
当店では、お客様の状態をお伺いするのにお時間をいただき(20分~40分)、体質に合った漢方薬をお選びさせていただいております。お気軽にご相談ください。
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