補中益気湯(ほっちゅうえっきとう)虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、コロナ感染後後遺症

補中益気湯(ほっちゅうえっきとう)虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、コロナ感染後後遺症

慢性疲労、虚弱体質、病後の体力低下、胃腸虚弱に「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」。
最近、コロナ感染後後遺症で倦怠感を訴える患者さんが多く、その対策として「補中益気湯」「麦味参顆粒」「十全大補湯」などを使って調合することが多くなりました。

今回は、「補中益気湯」の処方構成や分類、各生薬の役割、類似処方との違いついてご紹介いたします。
(※)漢方薬を服用の際には専門の医師・薬剤師、登録販売員にご相談ください。

補中益気湯

効能・効果

体力虚弱で,元気がなく,胃腸のはたらきが衰えて,疲れやすいものの次の諸症:
虚弱体質,疲労倦怠,病後・術後の衰弱,食欲不振,ねあせ,感冒

薬効分類

補気剤(ほきざい)
補気剤とは、気が不足している状態である「気虚(ききょ)」を改善する処方。「気の働き」と「低下時に起こりやすい症状」をまとめると以下のようになります。

  気の働き 気の不足による症状
①推動作用 血や津液などの循環や排尿、排泄、発汗などや精神活動の推進 便秘、冷え、倦怠感、疲れやすい、気力の低下、睡眠障害
②温煦作用 身体を温め体温を維持する働き 冷え、体温低下、臓器の機能失調
③防御作用 外から病邪が身体に侵入するのを防ぐ働き 風邪をひきやすい、アレルギー、皮膚炎、過敏症
④気化作用 新陳代謝や飲食物から血・津液を作る働き 食欲不振、下痢、貧血、生殖能力の低下
⑤固摂作用 血や津液が血管の外に漏れ出るのを防ぐ働き、内臓を定位置に収める働き 発汗傾向、内臓下垂、子宮脱、脱肛、不正出血

気は主に元気の源であり、免疫力、気力、体力、成長、新陳代謝と関係しています。免疫力は自律神経系やホルモン系とも深く関わりがあるため、気の不足は自律神経系・ホルモン系の乱れを引き起こす原因ともなります。

 

漢方薬の選び方|正気の不足【補益編】

構成生薬成分・薬効

人参(ニンジン)・・・補益薬:補気固脱、補脾気、益肺気、生津止渇、安神益智
白朮(ビャクジュツ)・補益薬:健脾益気、燥湿利水、固表止汗、安胎
黄耆(オウギ)・・・・補益薬:補気昇陽、補気摂血、補気行滞、固表止汗、利水消腫
当帰(トウキ)・・・・養血薬:補血調経、活血行気・止痛、潤腸通便
陳皮(チンピ)・・・・行気薬:理気健脾、燥湿化痰
柴胡(サイコ)・・・・辛涼解表薬:透表泄熱、疎肝解欝、昇挙陽気
甘草(カンゾウ)・・・補益薬:補中益気、潤肺・袪痰止咳、緩急止痛、清熱解毒、調和薬性
升麻(ショウマ)・・・辛涼解表薬:発表透疹、清熱解毒、昇挙陽気
生姜(ショウキョウ)・辛温解表薬:散寒解表、温胃止嘔、化痰行水、解毒
大棗(タイソウ)・・・補益薬:補脾和胃、養営安神、緩和薬性

補益薬は主に不足している気を補う働きの生薬。(人参・白朮・黄耆・甘草・大棗
柴胡・升麻は辛涼解表薬に分類されていますが、人参・黄耆・升麻・柴胡の組み合わせで気の不足によって落込んでいる内臓を持ち上げる「昇挙陽気」という働きを発揮し、主に内臓下垂・胃下垂・子宮脱・遊走腎・脱肛・ヘルニアなど「中気下陥」と呼ばれる状態を改善します。

更に、黄耆・白朮の組み合わせは「衛益顆粒・玉屏風散(黄耆・白朮・防風)」の働きもあるため③「防御作用」を強めることで感染症の予防や再発を防ぐと考えられています。

当帰は、当帰芍薬散や四物湯などの婦人科系の基本生薬で「血」を補い治療効果を高めます。
生姜・大棗の組み合わせは他の処方にも多く見ることができますが、この組み合わせは食欲や消化を助けることで薬の吸収を促進させるための配合です。

以上のことから、補中益気湯は、風邪や慢性疾患、肉体疲労、精神疲労などで「気」を大きく消耗した状態によって「倦怠感、食欲不振、気力低下、内臓下垂、出血傾向などの状態」となっていることを目標とし、脾胃を整えて消耗した「気」を補うことで身体を支え、精神・肉体ともに元気な状態にもどしていく漢方薬です。

類似処方

補気剤は他にも、六君子湯、参苓白朮散、啓脾湯があり、類似配合処方には十全大補湯、人参養栄湯などの処方があります。それぞれの特徴をご紹介いたします。

六君子湯(人参・白朮・茯苓・大棗・半夏・陳皮・生姜・甘草)
四君子湯(人参・白朮・茯苓・甘草・生姜・大棗)に陳皮・半夏を加えた処方でもあり、二陳湯(半夏・茯苓・生姜・甘草・陳皮)に補気薬(白朮・人参・大棗)を加えた処方と解釈することもできます。
補気薬である人参・白朮が配合されていますが、目標となるのは消化器系の機能の異常(胃炎・消化不良・嘔吐・呑酸・食欲不振)を改善させることですので、分類上は補気剤ですが、二陳湯と同じ「燥湿化痰剤(脾胃に溜まっている痰湿を除く)」しての薬効を目標にして気虚を伴う時に六君子湯を選択します。

参苓白朮散(人参、山薬、白朮、茯苓、薏苡仁、白扁豆、蓮肉、桔梗、縮砂、甘草)
六君子湯と同じ身体に溜まっている「湿」を除くことと気を補うことを目的とした処方ですが、薏苡仁、白扁豆・茯苓・白朮は腸管内や組織中の余剰の水分を血中に引き込んで利尿によって湿を取り除くため、軟便~水様便の症状が中心となる場合に参苓白朮散を選択します。

啓脾湯(人参、白朮、茯苓、蓮肉、山薬、山楂子、陳皮、沢瀉、甘草)
配合生薬は参苓白朮散とほぼ同じであるので目標とする証も参苓白朮散と同じなので、エキス剤で調合する場合には当店では参苓白朮散、煎じで調合する場合には啓脾湯又は参苓白朮散を調合しています。啓脾湯は山楂子が配合されているので揚げ物や肉類を食べて胃もたれや下痢を起こす場合は参苓白朮散よりも啓脾湯を選択しますが、煎じ薬の場合は化食養脾湯や加味平胃散など脾胃の失調を整え、消化を助ける処方が多いため選択肢が幅広くなります。

十全大補湯(人参、黄耆、白朮、茯苓、当帰、芍薬、地黄、川芎、桂皮、甘草)
分類は気血双補剤となります。補中益気湯や六君子湯は脾胃を中心として気を補う処方ですが、十全大補湯は川芎・地黄・当帰の四物湯の組み合わせによって血を補うこともプラスされているため、気虚に血虚症状(貧血、冷え、めまい、耳鳴り、乾燥肌など)を伴う場合には十全大補湯を選択します。

人参養栄湯(人参、黄耆、白朮、茯苓、当帰、芍薬、地黄、桂皮、甘草、五味子、陳皮、遠志
人参養栄湯は十全大補湯に五味子・陳皮・遠志を加えた処方となります。遠志は化痰作用や精神安定作用、五味子は咳止め収斂作用があるため十全大補湯の証に呼吸器症状がある場合を目標としていますが、呼吸症状が強い場合には呼吸器系の処方を中心とした調合になります。

補中益気湯、十全大補湯や人参養栄湯は、抗がん剤の副作用の軽減を目的として使用することもあるように、漢方薬は特定の疾患にだけ使用するために作られたのではなく身体に起こっている不足や停滞などを改善(特定の証を改善)することで健康を回復させ病気を繰り返さないようにしていきます。

今後も漢方薬は様々な疾患に対して有効な治療法として普及していくと考えています。その為に漢方薬を服用する際には、専門の医師、薬剤師、登録販売員に必ずご相談してください。