【漢方処方解説】麦門冬湯(ばくもんどうとう):コンコンから咳、コロナ感染後の乾燥性の咳に

【漢方処方解説】麦門冬湯(ばくもんどうとう):コンコンから咳、コロナ感染後の乾燥性の咳に

効能・効果

体力中等度以下で,たんが切れにくく,ときに強くせきこみ,又は咽頭の乾燥感があるものの次の諸症:からぜき,気管支炎,気管支ぜんそく,咽頭炎,しわがれ声

成分・分量

バクモンドウ(麦門冬) 10.0g
ハンゲ(半夏)     5.0g
タイソウ(大棗)    3.0g
ニンジン(人参)    2.0g
カンゾウ(甘草)    2.0g
コウベイ(粳米)    5.0g

処方解説

処方分類は「咳止め」ですが、中医学処方では「補益剤(ほえきざい)」という分類になります。
「補益剤」というのは、虚証を改善させる処方で、陰(血・津液・精)と陽(気)の不足を補う働きがあり、不足の状態を大きく4つに分類すると
・陰の不足:「血虚」「陰虚」
・陽の不足:「気虚」「陽虚」
となり、それぞれの改善には
・血虚改善・・補血剤(処方例:四物湯、十全大補湯、)
・陰虚改善・・補陰剤(処方例:生脈散、六味地黄丸)
・気虚改善・・補気剤(処方例:六君子湯、補中益気湯)
・陽虚改善・・補陽剤(処方例:八味地黄丸、牛車腎気丸)
とそれぞれ補う処方が使われます。

麦門冬湯は、「気虚」と「陰虚」の両方の状態を改善する処方なので、「気陰双補剤(きいんそうほざい)」という処方分類となります。

メインとなる生薬は「麦門冬(ばくもんどう)」ユリ科ジャノヒゲ属のジャノヒゲの根茎を使用します。

ジャノヒゲ(蛇髭)は耐寒性、耐暑性があり日陰でも育つのでお庭に植えているのをよく見かけます。

麦門冬の効能は、清熱潤肺・止咳、養胃生津、清心除煩、潤腸通便となり、麦門冬湯では「清熱潤肺・止咳」として主に働きます。
清熱は、炎症を鎮める働き
潤肺は、五臓「肺」を潤す働き
止咳は、咳を鎮める働きとなり「陰虚」を改善する「補陰薬」になります。

その為、麦門冬湯の麦門冬は喉・気管・気管支の炎症によって乾燥し咳が出ている状態を改善させる働きがあります。

その他、配合されている
人参・大棗・粳米・甘草は「気虚」を改善する「補気薬」
半夏は燥湿化痰という働きによって、麦門冬とともに咳止めに働きます。

麦門冬湯の適応となる証は「肺気陰両虚」で、一般的な症状は「風邪の後に空咳が続く、夜中に咳で起きる、痰が少ない、痰が切れにい、喉の乾燥を感じる」などを目安とします。

微熱がある場合や感冒後すぐなど炎症が残っている場合には、麦門冬湯と一緒に麻杏甘石湯や五虎湯、桔梗石膏など「清熱(炎症を鎮める)」処方と組み合わせます。

コロナ感染後後遺症の咳やPIC(感冒後咳)、百日咳にとても有効です。
ただし、「陰」を補うことが中心となる処方なので、むくみやすい体質の方や尿量が少ない方、痰が多い場合にはよく経過を観察しながら服用することが必要です。その為にも、漢方薬をご使用の際には必ず専門家指導のもとで服用するようにしてください。