【漢方処方解説】葛根湯・麻黄湯・(桂枝湯)の使い分け

【漢方処方解説】葛根湯・麻黄湯・(桂枝湯)の使い分け

風邪の初期に使われる類似漢方処方である「麻黄湯」と「葛根湯」。

これらの処方の違いと使い分けについてご紹介させていただきます。漢方薬を正しく使って日々の健康管理に役立てていきましょう。

処方比較

比較表

  麻黄湯 葛根湯 桂枝湯
麻黄 〇(4.0g) 〇(4.0g)
桂皮 〇(3.0g) 〇(3.0g) 〇(3.0g)
甘草 〇(1.5g) 〇(2.0g) 〇(2.0g)
杏仁 〇(4.0g)
葛根 〇(6.0g)
大棗 〇(4.0g) 〇(4.0g)
芍薬 〇(3.0g) 〇(3.0g)
生姜 〇(1.0g) 〇(1.0g)
効能効果 体力充実して,かぜのひきはじめで,さむけがして発熱,頭痛があり,せきが出て身体のふしぶしが痛く汗が出ていないものの次の諸症:感冒,鼻かぜ,気管支炎,鼻づまり 体力中等度以上のものの次の諸症:感冒の初期(汗をかいていないもの),鼻かぜ,鼻炎,頭痛,肩こり,筋肉痛,手や肩の痛み 体力虚弱で,汗が出るものの次の症状:かぜの初期
目標 表寒・表実 表寒・表実 表寒・表虚
体力 充実 中程度 虚弱
発汗の有無 なし なし あり
項背部筋の緊張 なし あり なし
悪寒 あり あり なし

 

葛根湯を基準に比較

葛根湯を基準にその他の処方を比較していきます。

葛根湯は桂枝湯に葛根と麻黄を加えた処方です。
葛根湯=桂枝湯+麻黄+葛根

桂枝湯に葛根だけを加えた処方は
【桂枝加葛根湯】=桂枝湯+葛根
「効能効果」体力中等度以下で,汗が出て,肩こりや頭痛のあるものの次の症状:かぜの初期
桂皮:3.0g
芍薬:3.0g
大棗:3.0g
生姜:1.0g
甘草:2.0g
葛根:6.0g
となります。
葛根を加えただけだと「汗が出て」となり、葛根と麻黄を加えると「汗をかいていないもの」となるので、
葛根と麻黄では麻黄の方が発汗作用がより強力です。
発汗作用(麻黄>葛根)

また、葛根を加えた処方には「肩こり、頭痛」とあるように葛根には首から背中上部にかけての筋肉(項背部筋)の緊張・こわばりを緩和させる働きがあります。

そのことから、葛根湯は麻黄湯の適応状態に項背部筋の緊張やこわばりが伴うもの、あるいは桂枝湯の適応に同様の症状が伴うものに使用します。

このことは、葛根に含まれる「微量のイソフラボン配糖体」による作用と考えられています。

麻黄湯の杏仁

麻黄湯に配合されている「杏仁(きょうにん)」についてご紹介いたします。

杏仁は、アンズの種子のことで、咳を鎮め、腸を潤し便通を改善させる働きがあります。

麻黄と杏仁を合わせると咳を鎮める「鎮咳作用」が強くなります。
それを利用した処方が「麻杏甘石湯」「神秘湯」「五虎湯」です。

麻杏甘石湯・神秘湯・五虎湯には「桂皮」が配合されていないので、麻黄の働きは発汗作用よりも鎮咳作用が主作用となります。

まとめ

風邪の初期において
・汗が出ている場合には「桂枝湯」。そこに項背部筋のこわばりがあれば「桂枝加葛根湯」。
・汗が出ていない場合には「麻黄湯」または「葛根湯」。

・咳が出ている場合には「麻黄湯」「麻杏甘石湯」

・項背部筋のこわばりがあれば「葛根湯」

・体力のある小児や成人には「麻黄湯」
・体力のない高齢者や虚弱者には「桂枝湯」「桂枝加葛根湯」

・のどの痛みが強い場合には、銀翹散・桔梗石膏などを併用

 

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