【漢方処方解説】「八味地黄丸」頻尿・尿漏れ・夜間尿・冷え・しびれ・腰痛・耳鳴り

【漢方処方解説】「八味地黄丸」頻尿・尿漏れ・夜間尿・冷え・しびれ・腰痛・耳鳴り

頻尿、夜間尿、排尿困難などの尿トラブルに効果のある”八味地黄丸(はちみじおうがん)”
についての処方解説。

「八味地黄丸」基本情報

配合生薬

熟地黄(ジュクジオウ)・ゴマノハグサ科のジオウの肥大根を酒で蒸したもの
山薬 (サンヤク)・・・ヤマノイモ科のナガイモの外皮を除去した根茎
山茱萸(サンシュユ)・・ミズキ科のサンシュユの成熟した果肉
沢瀉 (タクシャ)・・・オモダカ科のサジオモダカの周皮を除いた根茎
茯苓 (ブクリョウ)・・サルノコシカケ科のマツホドの外層を除いた菌核
牡丹皮(ボタンピ)・・・ボタンピ科のボタンの根皮
桂皮 (ケイヒ)・・・・クスノキ科のケイの幹皮
炮附子(ホウブシ)・・・キンポウゲ科のカラトリカブトの子根を炮製

製造方法

上記の生薬を切断又は破砕し規定の量とり,1 包として製する。

効能効果

体力中等度以下で,疲れやすくて,四肢が冷えやすく,尿量減少又は多尿でときに口渇があるものの次の諸症:
下肢痛,腰痛,しびれ,高齢者のかすみ目,かゆみ,排尿困難,残尿感,夜間尿,頻尿,むくみ,高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり,頭重,耳鳴り),軽い尿漏れ

使用上の注意

【してはいけないこと】
◎次の人は服用しないこと。
・生後3か月未満の乳児
・胃腸の弱い人
・下痢しやすい人

【相談すること】
◎次の人は服用前に医師、薬剤師、又は登録販売員にご相談ください。
・医師の治療を受けている人
・妊婦又は妊娠していると思われる人
・のぼせが強く赤ら顔で体力の充実している人
・今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人

◎服用後次の症状があらわれた人は、直ちに服用を中止し医師、薬剤師、又は登録販売員に相談すること
・過敏症:発疹、発赤、瘙痒、蕁麻疹等
・消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等
・その他:動悸、のぼせ、口唇・舌のしびれ

◎服用後、下痢する場合は使用を中止し医師、薬剤師、又は登録販売員に相談してください。

◎1か月くらい服用しても症状が良くならない場合には服用を中止し、医師、薬剤師又は登録販売員に相談してください。

処方解説

中医学分類

中医学では、腎臓、膀胱は五臓の「腎」に属します。
腎は、泌尿器の働き以外に人の成長や発育、生殖機能、老化と関係が深い大切な臓です。

腎は生命の源である「精」を貯蔵しているので、これを「腎精(じんせい)」とも呼びます。
この「腎精」は2つの働きに分かれています。

①腎陽の温める作用
 五臓六腑、組織、器官を働かせ温めています。
②腎陰の滋養する作用
 五臓六腑、組織、器官を滋養し、潤しています。時に熱を冷ます働きをします。

そして
・腎陽の働きが低下している状態を「腎陽虚(じんようきょ)」
・腎陰の働きが低下している状態を「腎陰虚(じんいんきょ)」
と言います。

八味地黄丸は、この両方の働きを補う作用を有していますが、「腎陽」を補う働きを高める生薬の配合があるため「腎陽虚」の証に使用する処方となります。この効能を中医学では「温補腎陽」といいます。

腎、その他の関係

腎は「耳、骨、髄」と関係するため。
腎の働きが弱まると
耳・・・難聴、耳鳴り、めまい
骨・・・足腰のだるさ、ひざの痛み、背中が曲がる、歯がもろくなる
髄・・・記憶力の低下(髄は骨と脳に栄養を与えています。)

他に「髪」とも関係するため。
白髪、脱毛、髪の毛の乾燥も腎の衰えと関係しています。

配合生薬解説

熟地黄(ジュクジオウ)
ゴマノハグサ科のジオウの肥大根を酒で蒸したもの、酒で蒸さない状態の地黄を「生地黄(ショウジオウ)」といいます。
それぞれ効能が異なり
・熟地黄は「養血薬(ようけつやく)」
・生地黄は「清熱涼血薬(せいねつりょうけつやく)」
にそれぞれ分類されています。

漢方薬の製造説明書でもある「薬局製剤指針」にはこの地黄について「ジオウ」としか記載されていませんので製品化されている八味地黄丸は、製造メーカーによって使用している地黄の種類は異なっているかもしれません。
八味地黄丸は「温補腎陽」なので本来は熟地黄が望ましいとされています。


桂皮・炮附子
桂皮・炮附子は「散寒薬(さんかんやく)」に分類し、寒邪・冷え(陽虚)を取り除く働きが特徴です。
ゆえに、この2つの生薬が「腎陽」を補う働きの中心となります。

炮附子は「真武湯(しんぶとう)」「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」にも配合され、両処方とも腎を温めて諸症状を改善させることを目的としています。

桂皮は、柴胡桂枝湯、桂枝加芍薬湯、温経湯、苓桂朮甘湯、牛車腎気丸などにも使用され、身体を温めて血行を促進する働きで配合されます。


山茱萸・山薬
「熟地黄」の養血作用をサポートしているのが山茱萸と山薬。でこの3種が「腎陰」を補う生薬で合わせて「三補」と言います。

山薬はヤマノイモで滋養強壮の食材としても有名。

山茱萸は観賞用の庭木としても使用され、2cm位の赤い果実が実り、滋養強壮にサンシュユ酒を造られる方もいます。滋養強壮以外にも「収渋・固渋作用」があり、これは尿が漏れ出ないように引き締める働きがあります。


牡丹皮
「立てば芍薬、座れば牡丹皮・・・」で有名なボタンの根の皮。
・血の滞りを除く「活血化瘀」の働き
・余分な熱を冷ます「清熱涼血作用」の働き
があります。


茯苓・沢瀉
どちらも「利水」作用があり、停滞している水湿を除く働きがあります。
茯苓には、脾胃の働きを助ける作用、心神を安定させる働きも持っています。

薬理学情報

薬効薬理

現代医学では、漢方薬の研究が盛んにおこなわれ、その働きを動物実験にて様々明らかになりました。その一部をご紹介いたします。

・糖尿病抑制作用
骨代謝に対する作用
造精機能に対する作用
血圧降下作用
・腎臓に対する作用

これらの研究結果は、中医学では五臓の働きとして「腎」を補うことで改善される作用であることがわかっていましたが、詳しい薬理作用までは解明できていませんでしたので、中医学理論・漢方処方の科学的証明がこれからも増えてくると西洋薬との併用、アンチエイジング、予防医学として発展していく治療法になると考えられます。

漢方薬を安全に安心して服用していただくためにも、ご自分の「証」に合った漢方薬を服用することを推奨いたします。

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