【処方解説】半夏厚朴湯;のどのつまり、異物感、ゆううつ、つわり
咽に何かがひっついているような、何か痰のようなものが詰まっている、飲み込んでも取れない、仰向けになると苦しく感じるなど、咽に異物感を感じている状態によく使用される処方「半夏厚朴湯」について解説いたします。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
効能・効果
体力中等度をめやすとして,気分がふさいで,咽喉・食道部に異物感があり,ときに動悸,めまい,嘔気などを伴う次の諸症:
不安神経症,神経性胃炎,つわり,せき,しわがれ声,のどのつかえ感
成分
半夏(ハンゲ)
茯苓(ブクリョウ)
厚朴(コウボク)
蘇葉(ソヨウ)
生姜(ショウキョウ)
中医学処方解説
処方構成と効能
小半夏湯に茯苓を加えると小半夏加茯苓湯。
小半夏加茯苓湯に蘇葉・厚朴を加えると半夏厚朴湯になります。
それぞれの効能は以下の通り
小半夏湯
悪心,嘔吐,食欲不振
小半夏加茯苓湯
つわり,嘔吐,悪心,胃炎
半夏厚朴湯
不安神経症,神経性胃炎,つわり,せき,しわがれ声,のどのつかえ感
・心窩部(しんかぶ);みぞおちあたり
・嘔吐(おうと); 胃の中にあるものを吐き出すこと
各処方の違い
小半夏湯は、半夏・生姜だけの構成で痰飲というものが胃の中に停滞しているために、胃の内容物が下降できずに逆流してきている状態を中医学では「胃中の痰飲による胃気上逆」と言いますが、この痰飲を取り除き胃の内容物がスムーズに下降するのを助ける処方が小半夏湯。主に、嘔吐・悪心症状に対して使用します。
食事の内容物や水分が何らかの原因によって,上手く胃から腸に移動できずに留まっているものを指します。
水分が停滞している状態を「胃内停水」と言い、ジャンプした時に胃の中でチャポチャポ音がします。
小半夏加茯苓湯は、小半夏湯に「茯苓」を加えた処方、茯苓は痰飲を除く他に精神安定にも作用します。小半夏加茯苓湯は、小半夏湯の痰飲を除く働きを強めた処方で「胃内停水」や悪心が強い場合に適しています。また、茯苓により自律神経系の安定も促すため、水様性の嘔吐(つわり)の他、不安やめまい、動悸などの症状にも使用します。
半夏厚朴湯は、小半夏加茯苓湯に蘇葉・厚朴を加えた処方、小半夏加茯苓湯の効能をさらに高めた処方でもあり、蘇葉・厚朴の理気作用(気の巡りを改善する働き)が加わっているため、痰飲を除き胃の働きを整える働きと気の滞りである「気滞」が伴う症状を改善します。その具体的な症状が「梅核気」となります。
また、上記の処方すべてに配合されている「半夏」には咳を鎮め、痰を取り除く働きもあるため、「痰飲」によって痰が絡まる、咳が出る場合にも使用する処方です。
気滞は主にストレスや疲労が原因となり「気」の流れが悪くなっている状態で、ゲップやガス、イライラ、肩こり、頭痛など様々な症状があらわれます。
梅核気(ばいかくき)
梅核気は、咽に閉塞感があり吐いても出ず飲み込んでもとれない症状ですが、食事などの通過には問題ない状態。
主に、喉頭部で感じる閉塞感です。
発生原因の多くは、心身のストレスによって引き起こされるもので、梅核気の症状とともに、不安感やイライラ、胸の痛みや圧迫感、息苦しさ、頭痛、めまい、吐き気、食欲不振、下痢などの症状が伴うことが多い傾向にあります。
その為、発生しやすい方は次のような体質の傾向があります
・胃腸の働きが弱い方
・動くと胃の中でチャポチャポ音がする「胃内停水」
・乗り物酔いしやすい
・早食い、よく噛まずに飲み込む
・水分の摂取量が多い(冷たいものが好き)
・呼吸器系の疾患がある
・下痢しやすい
関連処方
柴朴湯:小柴胡湯に半夏厚朴湯を合方した処方。小柴胡湯は五臓の「肝」、特に自律神経系の働きを整えるため、ストレスが多く梅核気の症状や緊張による過呼吸、喘息などに使用します。
茯苓飲合半夏厚朴湯:茯苓飲に半夏厚朴湯を合方した処方。茯苓飲は悪心・嘔吐を除く働きがあるため、半夏厚朴湯よりも「痰飲」を除く働きが強化。さらに枳実・陳皮という理気作用の生薬の配合もあるため、気鬱症状の改善にも優れています。
まとめ
半夏厚朴湯は「梅核気」の改善の代表処方です。
「梅核気」発生の原因は、「気滞」と「痰飲」
「気滞」は主にストレスや過労
「痰飲」は主に胃腸虚弱や食習慣(早食い、水分摂取過多、夕飯が遅いなど)
が発生の原因です。
ストレス性が強い場合には、柴朴湯
胃腸虚弱がもともとある場合には、茯苓飲合半夏厚朴湯や六君子湯と半夏厚朴湯の合方
といった処方を選択する場合があります。
梅核気は主に一時的な症状であらわれることが多いのですが、繰り返しやすいため発生原因の「痰飲」が停滞しにくい食事習慣や脾胃を整える漢方薬(六君子湯や補中益気湯、参苓白朮散、加味平胃散など)の服用、ストレスを溜めないような生活習慣をおすすめします。
参考書籍
・中医処方解説(医歯薬出版株式会社)
・中医臨床のための方剤学(東洋学術出版社)
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