【漢方処方解説】温経湯:月経不順、更年期障害、皮膚病、不妊症、不正出血などに
月経不順、不正性器出血、血の道症、更年期障害、不妊症、月経困難症、無月経、しもやけ、冷え症、湿疹、不眠などに使用する「温経湯(うんけいとう)」の処方解説、類似処方などをご紹介いたします。
温経湯(うんけいとう)
効能・効果
体力中等度以下で、手足がほてり、唇がかわくものの次の諸症:
月経不順、月経困難、こしけ(おりもの)、更年期障害、不眠、神経症、湿疹・皮膚炎、足腰の冷え、しもやけ、手あれ(手の湿疹・皮膚炎)
成分
半夏 :ハンゲ
麦門冬:バクモンドウ
当帰 :トウキ
川芎 :センキュウ
芍薬 :シャクヤク
人参 :ニンジン
桂皮 :ケイヒ
牡丹皮:ボタンピ
甘草 :カンゾウ
生姜 :ショウキョウ
呉茱萸:ゴシュユ
阿膠 :アキョウ
中医学処方解説
処方分類
温経湯は、その名の通り経絡(経脈)を温める処方で、「温裏虚寒剤」という処方分類となります。
経絡を温める、経絡とは、経脈と絡脈をまとめたもので、身体の気血が通る道を指していて、全身に分布しています。気血を車に例えると、経絡は道路になります。
道路には、高速道路、国道、市道などその用途に合わせて様々ありますが、五臓六腑などを結ぶ主要となる大きい道は「経脈」、大きい道から枝分かれして筋肉や皮膚など全体を網羅する道を「絡脈」と言います。ツボという所はこの経絡上にあるインターチェンジや主要な交差点などを指しています。
経脈の中で子宮や卵巣と密接に関係しているのが「奇経八脈」のうちの衝脈と任脈。
衝脈は血の海とも称され月経の調整に働き
任脈は妊娠・分娩と密接に関係しています。
その為、衝脈・任脈の働きが乱れると、月経の異常、不妊、更年期障害といった婦人科疾患に患う傾向にあります。
衝任虚寒
温経湯は、この衝脈と任脈の働きが低下したところに「寒邪」が入り込み、気血の流れが停滞したことで月経周期の異常・月経痛・無月経・不正性器出血・不妊などが発生している状態を改善する処方です。
生薬の働き
主薬となるのは、呉茱萸と桂皮
呉茱萸はミカン科のニセゴシュユの未熟な果実
呉茱萸、桂皮は、身体を温めて冷えを取り除き(散寒)、血の巡りを改善(活血)します。
当帰、芍薬、川芎は、血を補う「補血薬」として働き、血の不足の改善に働きます。
阿膠(アキョウ)は、ロバや牛の除毛した皮を水で煮て製した”ニカワ(膠)塊”で補血、滋陰、止血の働きがあり、痔出血や不正性器出血に使用する芎帰膠艾湯にも配合されている生薬です。
麦門冬は阿膠と同様に滋陰の働きがあり、潤いを補います。
半夏、人参、甘草、生姜は、脾胃を整える働きになります。
関連処方
芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)
不正性器出血の代表処方は、芎帰膠艾湯で温経湯と同様に「衝任虚寒」に使用しますが、芎帰膠艾湯は「艾葉」が配合されているので、出血に対して特に適した処方となります。
呉茱萸湯(ごしゅゆとう)
温経湯に配合されている主剤である「呉茱萸(ゴシュユ)」の働きを中心とした処方。
特に、胃が冷えている状態で食べると吐き気を催す、あるいは吐いてしまう場合に適した処方。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
当帰四逆湯という処方に「呉茱萸と生姜」を加えた処方で、温経湯同様に冷えによって巡りが悪い状態を温めることにより改善する処方です。
温経湯の冷えを除いて婦人科系の働きを整えるというよりも、冷えによって頭痛、腰痛、しもやけなど体表面の冷えがつらい状態を改善することを目標としています。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
不妊症の第一選択薬としても有名な処方。
温経湯には配合のない「沢瀉」「茯苓」「白朮」は利水作用という水の流れ排水を促す作用があるため、冷え、むくみ、めまいなどの症状を改善します。
婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)
イスクラ産業株式会社から販売されているシロップ剤の漢方薬。
芎帰膠艾湯から艾葉を除いて、黄耆、茯苓、党参、甘草を加えた処方内容。温経湯のように温めることに特化した処方ではなく当帰が多く配合されているために「養血(血を養う)」働きに優れています。
また、阿膠の配合から婦人科系の調整とともに美容・美肌としても利用されている漢方薬。
漢方薬を服用の際には必ず漢方薬に精通した専門家に、ご相談して服用するようにしてください。
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