甲状腺機能異常の症状に対する漢方治療

甲状腺機能異常の症状に対する漢方治療

甲状腺とは

(場所)
甲状腺の場所は首の前方で甲状軟骨(のどぼとけ)のすぐ下にあり、蝶々が羽を広げたような形状をしています。

(役割)
甲状腺はホルモンをつくる内分泌器官のひとつで、「甲状腺ホルモン」をつくっています。

(ホルモンの役割)
甲状腺ホルモンは、代謝を調整することで、体温や心拍数、エネルギー代謝、成長や発達に関わる重要な役割を果たしています。
甲状腺ホルモンは血液中の量が一定になる仕組みができています、この仕組みをコントロールしているのが下垂体という所から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)です。血液中の甲状腺ホルモンの量が減少すると下垂体から甲状腺刺激ホルモンが分泌し甲状腺を刺激することで甲状腺ホルモンの血液中の濃度を高めます。逆に血液中の甲状腺ホルモンが多くなると、下垂体からの甲状腺刺激ホルモンの分泌は抑えられます。

(甲状腺ホルモンの種類)
甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって甲状腺は刺激を受け甲状腺ホルモン(T3,T4)を分泌します。
T4はヨウ素を4つ持ち、T3はヨウ素を3つ持ちます。
血液中のT3とT4は、そのほとんどが甲状腺ホルモン結合蛋白と呼ばれるタンパク質と結合した状態で血液中を流れています。そして、実際に働いているホルモンはタンパク質と結合していない遊離型ホルモン(FT3、FT4)で血液検査ではこちらの数値を測定しています。

甲状腺の病気

橋本病

甲状腺に慢性の炎症を起こした状態で、進行すると甲状腺の機能が低下してしまいます。
自己免疫疾患の一つで、免疫系が自分自身の甲状腺を攻撃し、炎症を引き起こしている状態です。
(症状)むくみ、体重増加、疲労、冷感、皮膚の乾燥、抜け毛、便秘、肩こり、月経不順、月経過多、無気力、物忘れ、肝障害、貧血

バセドウ病

甲状腺の機能が亢進症している疾患。
何らかの原因によって免疫システムに異常が起こり、自己抗体が甲状腺を刺激することによって甲状腺ホルモンがが必要以上に分泌されてしまう状態になります。
(症状)眼球突出、体重増加、疲労、微熱、発汗、動悸、発汗、脱毛、軟便、脱力感、筋力低下、無月経、不妊、集中力低下、不眠、血圧上昇、肝障害

橋本病もバセドウ病も甲状腺ホルモンの分泌が適切な量ではないため、妊娠を希望している女性にとっては不妊や流産の原因となりますので、専門病院で甲状腺ホルモンの体内濃度をコントロールする治療が大切です。治療に用いる薬は、妊娠中も授乳中も医師の指示に従って治療をしている限り安心です。

漢方治療

甲状腺機能異常による症状は、全身に複数の症状があらわれてきます。
当店にご相談に来られた方の中には、皮膚のかゆみ、不眠、月経過多、むくみ、倦怠感を主訴としてご来店され、のちに甲状腺機能異常であったと診断される方もいます。

甲状腺機能異常も他の疾患同様、症状、体質、生活習慣、生活環境、家族歴などの情報から、乱れている身体のバランスを整えることを目標とします。

これまでご相談を受けてきた方たちは、五臓「肝」の乱れを中心として気血の働きが悪くなっている(気滞、瘀血、血虚)状態であるという特徴があります。その為、治療に用いる漢方薬は五臓「肝」の働きを整え、気血を巡らせる処方が中心となります。

甲状腺機能異常の症状も、五臓の肝に関係する症状が中心であることに気づきます。

五臓「肝」の働き

・気血の巡りを調整(疎泄作用):血流調整、新陳代謝、精神活動、筋肉の動き、月経調整
・血の貯蔵(蔵血作用):血を貯え、必要に応じて全身に送り出しています。
・六腑「胆」との関係 :胆は胆汁を貯蔵し、消化を助けます。肝はこの分泌を調整
・「筋」との関係   :筋は筋肉ではなく「すじ」や「腱」といった曲げ伸ばしの部分で、肝の血によって調整
・「目」との関係   :目を働かせる栄養は主に肝血によって調整されている
・「怒」との関係   :怒り、イライラなどの感情やストレスは肝がサンドバックのようにエネルギーを吸収しています。

代表的な漢方薬

これらの紹介している処方は、その方の症状や体質に合せて考えていくものです。漢方薬を服用の際には、必ず専門家にご相談し処方していただきましょう。

逍遥散、加味逍遥散、加味逍遥散合四物湯
五臓「肝」の働きが滞っている状態を改善する働きがあります。
いらいら、頭痛、皮膚の乾燥、便秘、疲労、浅い眠り、月経不順、月経痛など肝の働きの滞りによって血の滞りが生じているのが特徴です。

抑肝散、抑肝散加陳皮半夏
抑肝散同様に五臓「肝」の働きを整える処方ですが、めまいやふらつき、しびれ、こわばりといった症状(内風の症状)がある場合に選択する処方です。

補中益気湯
五臓「脾」の働きが低下することで「気」の働きが悪くなり、免疫力低下、疲労、、胃腸の働きの低下、胃下垂、直腸脱、不正出血など「気」のエネルギーの不足を補い、脾胃を整えることで「気」の生成を促します。

小柴胡湯
柴胡剤の代表処方。柴胡は五臓「肝」に働きかけ気の巡りを整える働きがあります。

杞菊地黄丸
六味地黄丸に菊花と枸杞子を加えた処方。
五臓「腎」の働きが低下している状態を補う処方で、中医学では「肝腎同源(かんじんどうげん)」という言葉があり、肝の病は腎に及び、腎の病は肝に及ぶと考えられていますので、腎虚である場合に上記の処方と合わせて服用します。
菊花・枸杞子は明目という目の疲れやかすみ目、ドライアイ、充血、かゆみなど目の悩みに適している生薬です。


橋本病もバセドウ病も自己免疫の異常によって、甲状腺が炎症し腫れを引き起こしたり、ホルモンが過剰に分泌されたり、分泌が低下する疾患です。
ホルモン量が乱れている状態を放置することは身体に悪影響を与えますので、西洋治療によってコントロールすることは大切です。

漢方治療は、ホルモンの量をコントロールすることはできませんが、自覚症状を改善し、五臓の「肝」を整えることで自己免疫の異常の改善が期待できます。
漢方薬を服用の際には必ず専門家にご相談し、適切な漢方薬を服用するようにいたしましょう。