嘔吐・吐き気の漢方治療

食べ過ぎ・飲み過ぎ、乗り物酔いなどで吐き気や嘔吐が起こりますが、ストレスや緊張、疲労、冷えなどからも嘔吐や吐き気が起こります。
中医学では、主に五臓六腑の「脾胃」の働きが乱れることによって引き起こされる症状と考えます。
嘔吐・吐き気の起こる仕組み、五臓六腑の脾胃の働き、漢方治療について解説いたします。
悪心・嘔吐の起こる仕組み(西洋医学編)
吐き気を悪心(おしん:吐きたいという不快な感覚)といいます。
嘔吐は、胃の内容物を吐き出す状態を指します。
悪心・嘔吐がおこるのは、延髄の毛様体にある嘔吐中枢が刺激されることによって引き起こされる生理現象です。
延髄(えんずい、medulla oblongata)とは、脳幹の一部で、大脳や小脳と脊髄をつなぐ中継点に位置しています。
延髄には、呼吸中枢や循環器中枢など生命維持に重要な中枢神経が存在し、その働きは、呼吸、嘔吐、嚥下、消化、心拍数の調節などが挙げられます。
悪心・嘔吐の原因
悪心・嘔気は、嘔吐中枢が刺激されることによって引き起こされる症状ですが、その刺激の原因は中枢性と末梢性に分類されます。
ここでの詳しい説明は割愛させていただきますが、詳しく知りたい方は下記サイトを参考にしてください。
公益財団法人|健康長寿ネット:https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/oshin-outo.html
五臓六腑「脾胃」
中医学では、悪心・嘔吐は五臓の「脾」、六腑の「胃」が関係しています。
それぞれの働きは以下の通り
五臓「脾」の働き
1.飲食物の消化・吸収・運搬を管理
2.気血をつくる
3.血の巡りを管理(主に出血しないように管理)
4.内臓や組織の位置を維持、これを昇提作用(しょうていさよう)といいます。
六腑「胃」の働き
口から入った飲食物を受け止める場所で、第一段階の消化、消化したものを小腸に送る働きがあります。
悪心・嘔吐の起こる仕組み(中医学)
悪心嘔吐は、消化した飲食物を小腸に送る働きが逆行することで引き起こされる症状です。
このことを「胃気上逆(いきじょうぎゃく)」と言います。
胃気上逆が引き起こされる原因は主に
寒(冷え)、熱(炎症)、痰湿、気滞(ストレス)、食滞(食べ過ぎ)、気虚(消化力低下)などがあげられます。
漢方相談に来られる方の多くは、気虚、痰湿、寒、気滞が主な原因なのでこれらについて解説します。
脾胃気虚(ひいききょ)
脾胃の働きが低下している状態。脾胃の働きが低下することによって「痰湿(たんしつ)」というものが生まれ上逆を引き起こしている状態
(主な症状)
悪心、嘔吐、食が細い、味がない、疲れやすい、元気がない、食欲がない、少食、軟便~下痢、貧血傾向、腹部膨満感、舌は腫れぼったく下の周りには歯形がついていることが多い、舌の色は薄ピンク色
(代表的な漢方処方)
六君子湯、香砂六君子湯、小半夏加茯苓湯
脾陽虚(ひようきょ)・脾胃虚寒(ひいきょかん)
脾胃の働きの低下が進んだ状態や慢性疾患、加齢などで脾胃気虚に冷えを伴う状態。または冷飲や寒冷の環境によって脾胃が冷えている状態。
(主な症状)
脾胃気虚の症状に、つばやよだれが多い、腹痛(温めると軽減)、腹が冷える、四肢の冷え、むくみ、頭痛、足腰のだるさ、明け方に下痢をする
(代表的な漢方処方)
安中散・大建中湯、人参湯、呉茱萸湯
肝気横逆(かんきおうぎゃく)
悪心・嘔吐の相談のなかで一番多いタイプ。
脾胃の働きは、五臓「肝」の気を巡らせる疎泄作用よっても調整されています。その為、肝の疎泄作用が乱れると脾胃の働きにも乱れが生じ、気が下降せずに、逆流してしまうことがあります。このことを肝気横逆と言います。
肝の疎泄作用の乱れる原因の多くは、過度なストレスや蓄積、緊張、生活習慣の乱れ、薬物、飲食の乱れ、慢性疾患など様々です。
(主な症状)
ゆううつ、情緒不安定、ため息、排便がすっきりしない、腹部膨満感、呑酸(酸性のゲップ)、下痢が続く、食欲不振
(代表的な漢方処方)
香砂六君子湯、柴芍六君子湯、抑肝散加陳皮半夏、半夏厚朴湯、柴胡桂枝湯、四逆散
ストレス性の肝気横逆の治療では、脾胃の働きを整えることと、肝気の巡りをよくすることを同時に行う必要があります。
悪心・嘔吐は、脾胃の働きの乱れやストレスが起因として解説いたしましたが、他にも腎不全、糖尿病、肺炎、大動脈瘤破裂、腸内感染症など様々な疾患ででもあらわれる症状です。
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