【漢方処方解説】十全大補湯:病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血

【漢方処方解説】十全大補湯:病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血

十全大補湯は、「気虚」「血虚」を改善する働きがあり「気血双補剤(きけつそうほざい)」に分類されます。
「気虚」は気の不足、「血虚」は血の不足であり、その両方を補う働きのある処方です。

十全大補湯の効能効果・配合成分・処方構成・臨床薬理についてご紹介いたします。

効能・効果

体力虚弱なものの次の諸症:
病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血

成分及び分量

人参(ニンジン)   3.0g
黄耆(オウギ)    3.0g
白朮(ビャクジュツ) 3.0g
茯苓(ブクリョウ)  3.0g
当帰(トウキ)    3.0g
芍薬(シャクヤク)  3.0g
地黄(ジオウ)    3.0g
川芎(センキュウ)  3.0g
桂皮(ケイヒ)    3.0g
甘草(カンゾウ)   1.5g
全 量    28 .5g

処方構成

四君子湯(人参、白朮、茯苓、甘草)の補気剤
四物湯(当帰、芍薬、川芎、地黄)の補血剤を組み合わせた「八珍湯(はっちんとう)」に
黄耆、桂皮を加え十種類の生薬で構成されています。

黄耆(おうぎ)
人参、白朮同様に補気薬(ほきやく)に分類され、人参、白朮と組み合わせることによって補気の働きが高くなります。
この組み合わせは、補気剤の代表でもある「補中益気湯」にもみられます。
また、人参、白朮、当帰、黄耆の組み合わせは「帰脾湯(きひとう)」「補中益気湯」にもあり、出血傾向(不正出血、皮下出血)など気の固摂作用の低下を改善する働きになります。

黄耆が主剤となる処方に「玉屏風散(黄耆、白朮、防風)」があり、これは特に体の表面を守る「衛気(えき)作用」を補う代表処方。
衛気を補うことで外敵から身を守る力が高まり、感染症予防、アレルギー対策として利用されています。

桂皮(けいひ)
桂皮は「散寒薬(さんかんやく)」に分類され、温めることで病邪の発散や末梢血流循環を改善することで冷えや痛みの緩和に働きます。
生理痛や打撲に使われる「桂枝茯苓丸」、ゾクッと来たら「葛根湯」にも配合されている生薬です。

薬効薬理

十全大補湯の薬理作用について公表されている臨床研究発表には以下のようなものがあります。(一部)

1.病後の体力回復
2.抗腫瘍作用
3.感染抑制
4.がん転移抑制
5.抗がん剤による体重減少抑制、白血球、赤血球などの減少抑制
6.抗がん剤による腎機能低下抑制
7.免疫調整作用
8.免疫作用の増加

癌に対しての十全大補湯の働きやメカニズムについては以下のサイトがお勧めです。
■漢方薬によるがん転移阻害のメカニズム(和漢医薬学総合研究所 済木育夫 教授)
https://www.inm.u-toyama.ac.jp/wiki/review_01.html

薬酒

十全大補湯は、十全大補酒という薬酒としても愛飲されています。
期待できる効能は「滋養・強壮・血行改善を目標として 虚弱体質、体力減退、疲労回復、病中、病後、および産後の栄養補給。」

自分で作りたい場合には、十全大補湯の煎じ薬三日分を糯米酒またはホワイトリカー1.8リットル、お好みで氷砂糖(400g~800g)を加え、約1か月冷所で保存したものを、1回5~10ml、1日1~2回服用します。
(お酒なので服用したら、自動車、バイク、自転車等の乗り物の運転はしないでください。)

2020年にお店で作った薬酒、人参養栄湯(十全大補湯に五味子、遠志、陳皮を加え川芎を除いた処方)をベースに数種類の生薬を混ぜて作りました。

多剤との併用

漢方薬は1種類だけを服用することもあれば、複数(2~3種類)の処方を組み合わせて服用することもあります。

組み合わせる主な目的としては、メインとなる漢方処方の補助、副作用対策になります。

補助というのは、例えば十全大補湯には「補気剤の四君子湯」と「補血剤の四物湯」が組み合わさっていますが、脾胃の虚弱(食欲不振、腹部膨満感、悪心、下痢)が強い場合には、六君子湯や香砂六君子湯、参苓白朮散などを組み合わせて脾胃の虚弱をサポートします。

また、頭痛、肩こり、高血圧、高血糖など「瘀血(おけつ)」が同時に見受けられる場合には、活血化瘀剤(かっけつかおざい)である、冠心Ⅱ号方、血府逐瘀丸、桂枝茯苓丸などを組み合わせて使用します。

ただし、あれもこれも症状があるから組み合わせてよいというものではなく、あくまでも主となる処方の働きをサポートすることを目的とすることが大切であると考えます。

副作用について

漢方薬にも副作用はあります。

特に注意が必要なのは
・偽アルドステロン症、ミオパチー
・肝機能障害
・間質性肺炎
疑われる症状があらわれた場合には服用を中止し、必要であれば医療機関にて適切な処置が必要です。

漢方薬の多剤併用(特に甘草の分量)に注意し、服用経過(症状・体質の変化、舌の状態など)を常に相談・経過観察をしていることで対策できますので、漢方薬を服用の際には必ず漢方に精通した専門家の指導のもと服用するようにいたしましょう。