「口臭」「ドライマウス」の予防と対策の漢方薬
- 2023.07.17
- 疾患別漢方治療
口臭は自分自身や周りにいる人が不快に感じる呼気の匂いであったり、他人からは指摘されたこともないが自分自身が不快に感じている心因性の口臭があります。中医学での口臭の発生原因とその対策について解説いたします。
唾液の減少
唾液は健康な成人で一日1.0~1.5リットル分泌されると言われています。唾液は、常に口腔内を湿潤し粘膜保護、自浄、水分平衡、潤滑、緩衝、抗菌、消化、組織修復、再石灰化、発ガン予防などの作用もあり、口腔のみならず身体が正常な機能を発揮するため無くてはなりません。(eヘルスネット)
唾液の分泌低下は口臭の原因となり、それだけではなく嚥下障害、咀嚼障害、発音障害、味覚障害などが起こるため、唾液の分泌をよくすることは健康管理に欠かせない要素の一つです。
中医学で唾液は「津液(水)」,「陰」に分類され,唾液の分泌減少は「陰虚(いんきょ)」「津虚(しんきょ)」と中医学では考えます。
津液(水)
津液は,身体に必要な水分のことで,唾液の他に胃液,関節液,涙,汗,血液成分の一部,体液といったものを津液と言います。
津液の役割は,皮膚や粘膜,関節,臓腑に潤いを与え,身体を守り,生理機能が円滑に働くようにしています。
津液は,飲食物から「脾胃」によって生成され,「肺」の働きによって全身へ散布され,その代謝の働きには「肝腎」が深くかかわっています。
このことから、津液の不足は,「脾胃」「肺」「肝」「腎」に問題があると考えます。
津液の不足である陰虚の原因によって、治療法(漢方処方)が異なってきます。
六味地黄丸(ろくみじおうがん)
【効能効果】
体力中等度以下で,疲れやすくて尿量減少又は多尿で,ときに手足のほてり,口渇があるものの次の諸症:排尿困難,残尿感,頻尿,むくみ,かゆ
み,夜尿症,しびれ
【解説】
六味地黄丸は、八味地黄丸から桂皮と附子を除いた6種類の生薬から構成され、主に加齢や慢性疾患による「腎陰」の消耗が起こっている状態に使用する処方です。口渇や喉の渇きの他に、手足のほてり、倦怠感、排尿異常、寝汗などがある場合に用います。
ほてりやのぼせの症状が強ければ、知母、黄柏を加えた「治柏地黄丸」。目のかすみ、眼精疲労を伴うなら菊花、枸杞子を加えた「杞菊地黄丸」。咳や痰などの呼吸器症状が伴う場合には麦門冬、五味子を加えた「麦味地黄丸」を使用します。
生脈散(しょうみゃくさん)・麦味参顆粒(ばくみさんかりゅう)
【効能効果】
次の場合の滋養強壮:虚弱体質,肉体疲労,病中病後,胃腸虚弱,食欲不振,血行不良,冷え症,発育期
【解説】
慢性疾患や発汗,風邪による体液の消耗によって発生する気陰の不足を補う処方。夏バテ対策や熱中症対策の水分(陰)補給としてよく用いられる処方です。
麦門冬湯(ばくもんどうとう)
【効能効果】
体力中等度以下で,たんが切れにくく,ときに強くせきこみ,又は咽頭の乾燥感があるものの次の諸症:からぜき,気管支炎,気管支ぜんそく,咽頭炎,しわがれ声
【解説】
風邪や喘息で痰が切れにくくせき込む時や風邪の後に咳が残っている場合などによく使用される処方で,この場合には「肺」の陰を補う処方として活躍しますが、「胃」の陰を補う働きもあるため,口渇や喉の乾燥に有効です。
陰を補う生薬
陰を補う生薬を「滋陰薬(じいんやく)」といいます。
沙参(しゃじん),天門冬(てんもんどう),麦門冬(ばくもんどう),玄参(げんじん),百合(びゃくごう),玉竹(ぎょくちく),枸杞子(くこし),女貞子(じょていし)などがあります。これらの生薬の中には健康食品として販売しているため,体質に左右されず口腔内の乾燥に手軽に使用することができます。
舌苔(ぜったい)
口臭のほとんどの原因が舌苔(ぜったい:舌の表面につく白い苔状のもの)と言われ,舌苔の除去が一番有効な方法であるといわれています。
中医学では,舌苔は五臓の働きや,病邪の深浅,胃気の働き,風邪や感染症の病状を反映するとして,診察において舌の色,形同様に重要視している項目の一つです。
舌苔が厚く多くなることで口臭が発生しやすくなりますが,その原因は脾胃の働きの低下や炎症が考えられるため,舌苔の色や湿潤,厚みを判断し,他の自覚症状など全体から判断して漢方薬を選択します。
生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)
【効能効果】
体力中等度で,みぞおちがつかえた感じがあり,ときに悪心,嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って軟便又は下痢の傾向のあるものの次の諸症:急・慢性胃腸炎,下痢・軟便,消化不良,胃下垂,神経性胃炎,胃弱,二日酔,げっぷ,胸やけ,口内炎,神経症
【解説】
半夏瀉心湯の乾姜の量を減らして,生姜を加えた処方。温める働きの人参,半夏,乾姜と炎症を抑える寒性の性質の黄連,黄芩が配合され,生姜を加えることで腐臭の胃気が逆上するのを抑えます。神経性胃炎,胃弱,胃潰瘍,十二指腸潰瘍,胃酸過多など幅広く使用できる処方です。
舌苔は白から黄色で舌に張り付いて簡単に取れないような状態
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
【効能効果】
体力中等度以上で,のぼせぎみで顔色赤く,いらいらして落ち着かない傾向のあるものの次の諸症:鼻出血,不眠症,神経症,胃炎,二日酔,血の道症,めまい,動悸,更年期障害 湿疹・皮膚炎,皮膚のかゆみ,口内炎
【解説】
炎症(熱)を抑える基本処方の一つ,炎症は胃気を低下させ湿熱を発生させるため舌苔は黄色く取れにくい。
また,熱によって陰を消耗し,唾液の働きも低下させてしまいます。そのような場合は,陰を補う漢方薬とバランスよく組み合わせるとより効果的があります。
六君子湯(りっくんしとう)
【効能効果】
体力が中等度以下で,胃腸が弱く,食欲がなく,みぞおちがつかえ,疲れやすく,貧血性で手足が冷えやすいものの次の諸症:胃炎,胃腸虚弱,胃
下垂 ,消化不良,食欲不振,胃痛,嘔吐
【解説】
口臭は,炎症だけでなく脾胃の働きの低下によっても発生します。これは,主に消化の働きの低下によって胃に飲食物が長く停滞することにより溜飲(未消化物:痰湿)が発生し,それが逆流することでゲップが匂う,胃気が匂う状態です。六君子湯は脾胃の虚弱を改善し,留飲を取り除く働きがあります。
舌苔を掃除しても繰り返し発生してしまう場合には,体質から舌苔が多く発生しないように体質改善することが治療の近道です。身体全体の問題として捉えて漢方薬で改善することができますのでお気軽にご相談ください。
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