起立性調節障害(OD)に対する漢方治療
起立性調節障害
起立性調節障害は思春期に好発し、循環系の自律神経機能の調整不全が起こることで、血液を身体や脳へ十分に送ることができずに、めまい・立ちくらみ、動悸、朝起きられない、倦怠感、頭痛、腹痛、無気力、イライラ、記憶力低下、慢性疲労、睡眠障害などの様々な症状があらわれる状態です。
起立性調節障害の体系的な研究の歴史は、1950年代のドイツに始まるようで、その時から循環器系の自律神経機能障害と捉えられられています。
日本の起立性調節障害に関する調査は4年に1回、アレルギーや生活習慣など様々な調査結果とともに「学校保健」サイトで公表しています。詳しい内容に関しては「学校保健」サイトの『平成22年 児童生徒の健康状態サーベイランス 事業報告書』でご覧いただけます。
調査報告書の中から「起立性調節障害の陽性率」に関しては、以下のような報告がされています。
【陽性率】
小学生
5.6年生女子:3.5%
中学生
男子:16.9%
女子;25.6%
高校生
男子:21.7%
女子:27.4%
前回の調査結果と陽性率に関しては横ばいで、男女差についても従来の報告と同様に中学生では女子の陽性率が男子より12%、高校生では11.7%高かったとなっているようです。
起立性調節障害は思春期に好発し、特に午前中の体調不良から遅刻や欠席が続くことで、体調のみならず心理的ストレス、不安、心配、生活習慣の乱れとなるため、早期に対策を行うことが大切であると考えます。
起立性調節障害のチェックリスト
※最終的な判断は専門医を受診してください。
漢方の考え方
起立性調節障害だけに限らず、すべての疾患や体調不良に対しての漢方薬は、診察(望診、問診、聞診)によって『証』を導き出すことで『証』に適した漢方薬を選定することができます。
ここでは、私のこれまでの相談体験で同じような疾患の方たちには、特定の傾向(体質や生活習慣、併発症状)が見受けられることから大きな分類分けをして漢方治療の考え方をご紹介いたします。
五臓「肝」
起立性調節障害をはじめ、小児や思春期の精神症状(不安、不眠、イライラ)、チック、夜尿症、過敏性腸症候群、アトピー性皮膚炎などはある種の特徴があります。
それは、五臓「肝」の働きの不足です。五臓の肝は、肝臓の機能だけでなく、中枢神経系・自律神経系の調整、新陳代謝、気血の流れ、感情のコントロール、ストレスの緩和(内外環境への適応)をする役割のある臓腑と中医学では考えています。
また、「肝」は「情緒の臓器」とも言われ、感情やストレスとも関連があり、ストレスを受けると「肝」が解消するように働きますが、ストレスの蓄積や急激な変化に適応できなくなると「肝」の働きが乱れることによって、情緒や自律神経系に乱れが生じます。
思春期は、身体的、性的、感情的に成熟する時期です。
身体が成熟するということは、外見だけではなく臓器、神経系などもそれに伴って大きく成長していきます。身長や体重などの身体的な成長に比べ、内臓器官や神経系などの内部器官の成長は遅いことが一般的です。特に、脳は成人になるまで持続的に発達し続け、思考力や、認知能力、感情の制御など、歳を重ねるごとに発展し成熟します。
起立性調節障害に関する様々な資料や文献を見ても、起立性調節障害の発症と身体の成長速度や内臓の成長速度との直接的な関係は確立されていないことが分かりますが、思春期発症が顕著であること、症状の多くが自律神経系中心であることを考えると内臓の成長速度の問題を無視できないのではないかと考えます。
これらのことから、五臓「肝」の成熟が弱かったり、ストレスによって働きが弱まることで、起立性調節障害を引き起こしていると考えます。
五臓「脾」
五臓「脾」は、消化器系の働き全般を指し、飲食物を胃や小腸で消化・吸収させ、栄養物質・水分を全身に運びます。この栄養物質が身体を支え、成長させるエネルギーとなります。
思春期は特に成長するためのエネルギーを必要としていますが、その時期に、飲食のバランスの乱れや消化器系の乱れ(食欲不振、消化不良など)を起こしてしまうと、身体・臓器の成長に影響を与えてしまいます。
五臓「肺」・過敏性腸症候群・アレルギー
漢方相談に来られる児童の中で、特に男の子に過敏性腸症候群の悩みを抱えているケースが多いと感じています。女の子の場合は逆に便秘、あるいは、便秘と下痢を交互に繰り返す傾向があります。「大腸」は五臓「肺」と表裏の関係であり、このケースの体質の人には、呼吸器系や皮膚系の疾患を伴っていること多いのが特徴です。
過敏体質やアレルギー体質というのは、様々なストレスに対して過度に反応する性質を持っていて、急激な変化に対してうまく適応ができません。
当然、精神的ストレスに対してもうまく対応することが苦手な傾向があります。
五臓「肺」と「肝」は、主に「気」の流れをコントロールするために協力し合っていて、「気」は「血・水」を全身に循環させ、臓腑を正常に働かせる役割があります。また、「肺」と「肝」は互いに抑制(相克)の働きを持っているため、正常であれば「肺」は「肝」が過剰に働き過ぎないように抑え、同様に「肝」は「肺」が過剰にならないように抑制していますが、一方が過剰に働きすぎたり、弱ったりすることで互いにそのバランスや働きを乱してしまいます。
その状態の結果の一つが起立性調節障害です。
未病先防
起立性調節障害の児童の多くは、身体の組織や臓器に明確な損傷や異常が見られる疾患(器質的疾患)ではなく、組織や臓器には異常が見られない疾患(機能的疾患)です。
いわゆる「未病(病気の一歩手前)」の状態です。
中医学の基本は「未病先防」・・病気にかかる前に防ぎ、すでに病気にかかってしまっている場合は悪化を防ぐ。
成長期の子供の成長をサポートし、身体の気になる症状を軽減、体質を整え、病状の悪化を防ぐ治療をする漢方療法は、現代の悩める子供たちにとって有効な手段だと確信しています。
身体の悩み・心の悩みも含めてお気軽にご相談ください。
相談は予約制となります。話を少し聞きたい、もう少し詳しく知りたい場合も相談の予約をしてください。(相談無料)
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