漢方薬で糖尿病の合併症の対策
糖尿病は、インスリンの分泌不足や作用不全によって高血糖状態となる病気です。高血糖の状態が長く続くことでさまざまな症状や慢性合併症を引き起こします。
漢方薬は、自覚症状の緩和と合併症の進行を抑え、予防すること目的としています。
糖尿病とは
糖尿病で問題となるのが高血糖状態。
高血糖というのは、血糖値が基準値を超えて高くなっている状態です。
血糖値 |
血液中のブドウ糖(グルコース)濃度のことで、空腹時には70~109(mg/dL)が基準値となります。 |
ブドウ糖(グルコース) |
ブドウ糖は血中から全身の細胞に取り込まれ、生体のエネルギー源となりますが、全身の細胞に取り込むためには、インスリンが必要となります。 |
インスリン |
膵臓ランゲルハンス島β細胞から分泌されて、血糖を低下させる働きがあるホルモン。 |
どうして高血糖状態になるのか
私たちは食事をして様々な栄養を消化・吸収し身体を動かすエネルギーの源としています。そのエネルギーの一つでもあり身体の臓器を動かす主要な栄養素がブドウ糖です。
ブドウ糖は、そのまま血液中に流れていてもエネルギー源として働かないので、インスリンの助けによって細胞内に取り込まれエネルギー源となります。
そのインスリンの働きに問題が生じると血液中のブドウ糖の濃度が高くなり高血糖状態となるのですが、その原因は
①産生低下:インスリンを産生・分泌する膵臓ランゲルハンス島β細胞の破壊
②インスリン分泌低下:インスリンを大量に消費してしまったりすることでのインスリン不足(枯渇)
③インスリン抵抗性:グルコースの細胞内に取り込まれる働きの低下
の3つがあります。
高血糖の何が問題なのか
高血糖の状態が長い間続いてしまうと、血管に負担がかかり傷つけたり、詰まらせることによって血流に障害が発生して様々な臓器・組織の働きに悪い影響があらわれます。
血管は、動脈や静脈のように太い血管から細く網の目の様に全身に張り巡らされている細い血管があり、それぞれ血流に障害が発生すると
合併症 | |
太い血管(大血管症) | 心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患 |
細い血管(細小血管症) | 糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害 |
その他に、脚の潰瘍・壊疽、認知症、骨粗しょう症、歯周病などの合併症が発生します。
細い血管に起こる合併症では
糖尿病性網膜症 | 目のかすみ、充血、視野狭窄などがあり、悪化すると失明する危険 |
糖尿病性腎症 | 人工透析が必要となる一番多い原因 |
糖尿病性神経障害 | 神経が障害され手足のしびれ、痛み |
糖尿病には、口渇、多尿、多飲、体重減少という自覚症状がありますが、高血圧、脂質異常症など他の生活習慣病同様に自覚症状が少ない疾患ですが、ときに生命を脅かし、QOL(生活の質)の低下を引き起こしてしまいますので、合併症予防はとても大切です。
糖尿病の合併症を予防するには
合併症予防には、血糖値のコントロール、医療機関での定期的な診察と検査、日常生活での体重管理、運動、休養、ストレス対策が大切です。
国民健康・栄養調査
国民健康・栄養調査は、国民の身体の状況、栄養摂取量及び生活習慣の状況を明らかにし、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基礎資料を得ることを目的として、毎年実施していますが、コロナウイルスの影響もあり令和2年・3年は中止となり、令和4年の国民健康・栄養調査につきましては、調査計画では令和5年12月の公表と厚生労働省はお知らせしていますが、集計に時間を要しているようです。
令和元年の「糖尿病に関する状況」調査結果の内容をご紹介します。
(令和元年国民健康・栄養調査報告:厚生労働省 令和2年12月)
「糖尿病が強く疑われる者」の割合は男性19.7%、女性10.8%である。この10年間でみると、男女とも有意な増減はみられない。年齢階級別にみると、年齢が高い層でその割合が高い。
という考察でしたが10年前と比べると明らかに糖尿病が疑われる方は増えていますし、男女とも50代以降に糖尿病が疑われる者の割合が高くなっているのが特徴です。日本人の6人に1人が糖尿病やその疑いがあるといわれ、日本の国民病ともいわれていますので、体重が増加傾向にある方、健康診断で血糖値が少し高い傾向になっている方は早めの対策が大切です。
糖尿病に対する漢方薬の役割
糖尿病の最も注意するべき点は合併症です。特に、慢性合併症は「血管の病気」とも言われています。血管は、生命維持・からだの各臓器・組織の働きに欠かせない、大切なパイプラインで網の目の様に全身にはりめぐらされ、その全長は約10万キロメートル(地球約2周半)もの長さがあります。
高血糖の状態が長い間続いてしまうと、血管に負担がかかり傷つけることで硬くなったり、詰まらせることによって血流に障害が発生し、様々な臓器・組織の働きに対して悪い影響があらわれます。
血液の質や血管の柔軟性の低下の状態を中医学では「瘀血(おけつ)」と呼んでいます。漢方薬での糖尿病に対する対策の一つは、この瘀血を改善・予防することです。
瘀血(おけつ)は百病の源
瘀血は中医学独自の考え方で、単に血液がドロドロしている状態だけを指しているのではなく
①血液の循環障害
②血液の汚濁、粘稠
③内出血
④器官の増殖、変性、硬化
⑤各種の腫瘍、癌
など5つの意味が含まれています。
中医学には「瘀血為百病之源」「百病多兼瘀血」といわれ、多くの病気は瘀血によるものだと言われ、瘀血を改善し予防することが健康維持・健康長寿に大切であると説いています。
瘀血を改善するには
瘀血を改善する生薬の種類を「活血化瘀薬(かっけつかおやく)」といいます。活血化瘀薬を主薬として構成されている漢方薬の種類を「活血化瘀剤(かっけつかおざい)」といいます。
【活血化瘀薬】
川芎(せんきゅう)、延胡索(えんごさく)、降香(こうこう)、鬱金(うこん)、丹参(たんじん)、三稜(さんりょう)、莪朮(がじゅつ)、蘇木(そぼく)、益母草(やくもそう)、牛膝(ごしつ)、桃仁(とうにん)、紅花(こうか)など
【活血化瘀剤】
冠心Ⅱ号方、冠元顆粒、血府逐瘀湯、芎帰調血飲、桂枝茯苓丸、補陽還五湯など
どのようにして瘀血を改善するのか
1.血行促進
活血化瘀剤に含まれる成分は、血液の循環を促進する働きがあります。これにより、血や気の流れが滞る箇所に新鮮な血液や栄養素が供給され、組織の代謝や修復が促進されます。
2.瘀血の溶解
活血化瘀剤に含まれる一部の成分は、瘀血を溶解・凝固を抑制する働きやがあります。これにより、血管や組織にたまった古い血液や血栓が分解され、循環が改善されます。
3.炎症の軽減
瘀血は炎症の原因となることがあります。活血化瘀剤に含まれる一部の成分は、炎症を抑制する働きがあります。これにより、瘀血に関連した炎症が軽減され、関連する症状が改善されることがあります。
活血化瘀剤はこれらの働きによって瘀血を改善していると考えられています。
自分に合った漢方薬を服用するには
瘀血の改善には、自覚症状、体質、生活習慣などから自分に合った漢方薬を選んで服用することが大切です。また、漢方薬を服用している間の体調の変化についてもよく観察し、続けて服用する漢方薬を選ぶ必要があります。
その為、漢方に精通し、気軽に相談できる漢方専門薬局・薬店で自分に合った漢方薬を選んでもらうようにいたしましょう。瘀血の予防・改善だけではなく、身体のトータルケアを考えるのが中医学療法です。お気軽にご相談ください。
イスクラ冠元顆粒ってどんな薬なのか
-
前の記事
2024年4月・5月・ゴールデンウィークのお休み 2024.04.06
-
次の記事
日本中医薬研究会・多摩中医薬研究会 新規会員募集 2024.04.28