心身疲労による不眠に「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」

心身疲労による不眠に「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」

 不眠症に対するファーストチョイスの漢方薬と言われる「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」。
 疲れて眠れない方に特に効果を発揮しますが、漢方薬は症状だけではなく体質も見極めて使用する必要があるので、どんな症状・体質の人に使用するのかについてご紹介いたします。

主軸となる生薬「酸棗仁(さんそうにん)」

 酸棗仁湯に使用されている生薬は5種類(酸棗仁、甘草、知母、川芎、茯苓)。主軸となる生薬は処方名にもなっている「酸棗仁」です。

 酸棗仁はナツメ(棗)と同属の植物で、和名:サネブトナツメと呼ばれる落葉高木で長さ約3cm になる細くて鋭い刺があり、(ラテン名の spinosa はナツメのものよりも鋭いこの刺に由来)その種子を生薬として使用します。
 ナツメ(棗)よりも果実は小さいが中の核(さね)が大型であることから、核太棗(サネブトナツメ)と呼ばれ、果実はナツメよりも非常に酸っぱいのも特徴です。

 中医学では、酸棗仁は養心安神薬(ようしんあんしんやく)の代表的生薬で、滋養強壮作用、中枢神経系を抑制作用、鎮静作用により催眠効果をもたらすため、酸棗仁が配合される代表的な処方の酸棗仁湯は、不安感やイライラを和らげ不眠症などに使用されます。

酸棗仁湯が合う人の体質とは

《金匱要略》には「虚労、虚煩し眠るを得ざるは、酸棗湯これを主る」とあります。

虚労:体のエネルギーや物質が不足し、体力や気力が著しく低下した状態を指します。特に、長期間にわたって体力や精力が消耗し、元気がない、疲れやすい、病気が回復しにくいといった症状が続く場合に「虚労」と診断されます。

虚煩:体力や精力が不足している「虚」の状態に伴って、心神が乱れ、精神的なイライラや焦燥感が生じている状態を指します。これは主に、陰虚(体の潤い不足)や血虚(血の不足)によることが多く、夜間に特に症状が悪化することもあります。よく見られる症状としては、不眠や焦燥感、ほてり、汗をかくなどがあります。

 慢性疲労、久病、大病などにより陰血が不足し「顔色が悪い、貧血傾向、めまい、動悸」の「血虚」、「のぼせ、ほてり、寝汗、口や喉の渇き」の「陰虚」の体質になることで、疲れて眠れない、疲れるとかえって眠れない、眠ろうとしても眠れないといった不眠に酸棗仁湯は適応します。

精神活動と五臓の関係

 五行説の「五神(ごしん)」は、五行(木、火、土、金、水)に関連する五つの精神活動や心の働きを指します。五臓各臓器の健康状態や精神バランスを反映しており、互いに関連しながら体と心を支えています。

肝:魂(こん)
 精神的な力、活力、創造力、積極性を司ります。魂のバランスが崩れると、情緒不安定や無気力、集中力の欠如が現れます。

心:神(しん)
 思考、意識、精神の明るさを司ります。神の状態が良ければ、健全な思考力と精神安定が保たれます。神の乱れは、心配、混乱、不眠、心煩などを引き起こします。

脾:意(い)
 思考や意識、記憶力、集中力を司ります。意のバランスが取れていれば、記憶力や学習力が向上しますが、意が弱まると記憶力や集中力の低下を引き起こします。

肺:魄(はく)
 感覚、肉体的な本能や反応を司ります。魄は生まれながらに持っている本能的な力で、肺が健全だと感覚や反応が鋭くなりますが、魄が弱いと疲労感や無気力感が生じます。

腎:志(い)
 意志、目標達成、忍耐力、集中力を司ります。志が強ければ、目標に向かって粘り強く努力することができますが、腎が弱ると意志力が低下し、挫折しやすくなります。

五神の関係性と調和

 五神は、各臓器の健康状態や精神バランスを反映しており、互いに関連しながら体と心を支えています。五行説では、木・火・土・金・水の五行が相互に作用しているのと同様に、五神も相互に影響し合います。五神は身体の健康と精神のバランスを保つ上で非常に重要であり、各神のバランスを整える=五臓のバランスを整えることが大切です。

肝血虚と魂の関係

 肝血虚(かんけっきょ)になると、五神の一つである「魂(こん)」の働きに影響が及びます。具体的には、肝血が不足すると、「魂」を安定させる力が弱まり、精神的な不安定や情緒の乱れが現れることが多くなります。

 肝血は「魂」を養い、落ち着かせる役割を果たしていますが、肝血が不足すると、その作用が十分に機能せず、以下のような症状が見られることがあります。

  • 情緒不安定: イライラや不安感、落ち着きのなさが現れます。些細なことで怒りやすくなったり、感情の波が激しくなることがあります。

  • 不眠や多夢: 魂が安定しないため、夜間に魂が落ち着かず、眠りが浅くなったり、夢を多く見ることがあります。不眠症状が顕著になることもあります。

  • 無気力感や意欲の低下: 肝血虚によって「魂」が正常に機能しないと、やる気や創造力が低下し、精神的な活力が失われることがあります。これにより、日常生活や仕事に対する意欲が減少する傾向が見られます。

  • 集中力や決断力の低下: 魂のバランスが崩れると、物事に対する集中力や決断力も低下し、注意散漫になりやすいです。

肝血虚の原因と改善

 肝血虚の原因としては、長期間のストレス、過労、不適切な食事、月経不順などがあります。治療では、肝血を補うことが重視され、補血の漢方薬(婦宝当帰膠、十全大補湯など)や養生法が用いられます。また、十分な休養、適切な栄養摂取、ストレス管理も大切です。

 肝血虚を改善することで、魂のバランスが整い、精神の安定や情緒の安らぎを取り戻すことが期待できます。


まとめ

 酸棗仁湯は、慢性疲労・大病後・出産後・精神疲労などにより「肝血不足である肝血虚」となり、ほてり・のぼせや喉の渇き・寝汗などの「陰虚症状」も伴う「睡眠障害」に適応している処方です。

 睡眠を安定させることは心身の健康維持のために大切です。最近眠りが浅い、産後うまく眠れない、早く目が覚めてしまう、途中で何度も目が覚めるなどの睡眠障害にも、体質から整えて改善させることができます、漢方相談によって体質を判断して自分に合った漢方薬を服用していきましょう。

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