葛根湯の使い方

葛根湯の使い方

・風邪の引き始めには「葛根湯」
・ゾクッと来たら「葛根湯」
とCMで言われているフレーズは皆さんよくご存じのことでしょう。

お客様から、葛根湯をいつ飲めばよいのか、どんな症状の時に服用すればよいのかを尋ねられることが多いので、葛根湯についてご紹介いたします。

葛根湯とは

葛根湯の構成

葛根湯の構成成分は、葛根・麻黄・生姜・大棗・桂皮・芍薬・甘草の7種類で、インフルエンザに良いと言われた麻黄湯や桂枝湯と同じ解表剤(げひょうざい)に分類されています。その麻黄湯1/3と桂枝湯1/3を混ぜたものが桂麻各半湯。

以下、薬局製剤指針より

(単位:g) 葛根湯 麻黄湯 桂枝湯 桂麻各半湯
葛根 8.0 × × ×
麻黄 4.0 4.0 × 2.0
生姜 1.0 × 1.0 1.0
大棗 4.0 × 4.0 2.0
桂皮 3.0 3.0 3.0 3.5
芍薬 3.0 × 3.0 2.0
甘草 2.0 1.5 2.0 2.0
杏仁 × 4.0 × 2.5

葛根:マメ科のクズの周皮を除いた根
麻黄:マオウ科のシナマオウをはじめとする同族植物の木質化していない地上茎
生姜:ショウガ科のショウガの根茎
大棗:クロウメモドキ科のナツメまたはその品種の果実
桂皮:クスノキ科のケイおよびその他同属植物の幹皮
芍薬:ボタン科のシャクヤクのコルク皮を除去し、そのままあるいは湯通しして乾燥した根
甘草:マメ科のウラルカンゾウまたはその他同属植物の根およびストロン
(参考資料:中医臨床のための中薬学)

※中医処方では、桂皮ではなく桂枝を使用します。桂枝は麻黄・生姜と同じ「辛温解表薬」に分類され、桂皮は「散寒薬」に分類されています。両方とも温営血・助気化・散寒疑の効能を持ちます。

葛根湯の主役「葛根」

冬に肥大した葛の根を掘り採り、水洗いしたのちにコルク質の皮をはぎ、細かく刻んで日干ししたものでこれを「葛根」と呼んでいます。

葛は、京都発祥(京都祇園「鍵善良房」)の銘菓「くずきり」の原料としても使用されていますが、くずきりで使用する葛は葛根を粉々にし、水でさらしながらデンプンを取り除いた「葛粉」を使用します。(「鍵善良房」さんの葛は地下水でのみ精製・乾燥を繰り返した奈良県「森野吉野葛本舗」さんよりお取り寄せしているもの)

市販されている葛粉の中にはサツマイモのデンプンを使用しているものが多いので、くずきりや葛餅を作るときには注意しましょう。

また、万葉集で詠われる秋の野の花、秋の七草のひとつでもあります。

葛根は、においはなく、味は僅かに甘味があり、後にやや苦い。
成分は、イソフラボノイド、イソフラボノイド配糖体(プエラリンなど)、ブテノリド、トリテルペノイドサポニン、デンプン等で、日本薬局方の規格ではプエラリンが2.0%以上含有していなければなりません。

葛根湯の効果

効能・効果

市販品(一般用医薬品)・薬局製剤指針に記載されている効能・効果
体力中程度以上のものの次の諸症:
感冒の初期(汗をかいていないもの)、鼻かぜ、鼻炎、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み

医療用医薬品の添付文書に記載されている効能・効果
(ツムラ)
自然発汗がなく頭痛、発熱、悪寒、肩こり等を伴う比較的体力のあるものの次の諸症:
感冒、鼻かぜ、熱性疾患の初期、炎症性疾患(結膜炎、角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、乳腺炎、リンパ腺炎)、肩こり、上半身の神経痛、じんましん
(コタロー)
頭痛、発熱、悪寒がして、自然発汗がなく、項、肩、背などがこるもの、あるいは下痢するもの。感冒、鼻かぜ、蓄膿症、扁桃腺炎、結膜炎、乳腺炎、湿疹、蕁麻疹、肩こり、神経痛、偏頭痛。
(クラシエ)
感冒、鼻かぜ、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み

同じ葛根湯なのに、効能・効果の表示が違うのは

「医療用医薬品」は医師若しくは歯科医師によって使用され又はこれらの者の処方せん若しくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品。
「一般用医薬品」は一般の人が薬局等で購入し、自らの判断で使用する医薬品。

と分けているため、市販品(一般用医薬品)は専門家でなくても自らが判断しやすいように記載されているのです。(厚生労働省資料:医療用医薬品と一般用医薬品の比較について

どんな症状に使うのか

風邪の引き始めに葛根湯と言われるが、どのような風邪の症状にも良いというわけではありません。葛根湯の成分を見ると、メインとなるのが解表薬(麻黄・桂皮・生姜・葛根)で、解表薬とは発汗させたり、汗ばませることによって、主に表邪(※1)を発散して表証(※2)を改善する生薬ですので、体表面の邪を発散させる目的で使用します。

(※1)何らかのウイルスや細菌などが人体の体表部に侵襲する発病因子
(※2)表邪によって引き起こされる症状(例:頭痛、寒気、発熱など)

効能効果にも記載されていますが、「汗をかいていないもの」「自然発汗がなく」と汗が出ていないときにという状態がポイントです。

汗が出てしまっている場合は、自らの力で表面の病邪を追い出していますので、葛根湯を服用しなくても良いのですが、

汗が出ないで表邪を追い出すことができていない場合には、悪寒がして背筋や肩甲骨にゾクゾクと寒気を感じてきます。こんな時こそ「葛根湯」で発汗を促して病邪を追い払いましょう。

こんな使い方もある葛根湯

葛根湯は、風邪の初期段階だけに使用する漢方薬ではなく、
・体を温める「桂皮」
・筋肉のけいれんを鎮める「麻黄」「芍薬」
といった生薬も配合されているため、

体表面が冷えているときの、頭痛、肩こり
体表面の邪を追い出せない皮膚病
鎮痛剤代わりに生理痛
にも使用されます。

私は、冬の外出時や真冬の寝る前など、身体が冷えそうなときに葛根湯を服用しています。初詣前には高尾山で御護摩に出るため、必ず葛根湯を服用して出かけます。

体表面が冷えると風邪にかかりやすくなります。冷えるとすぐに風邪をひくという方は、葛根湯を予防として服用することをおすすめします。

葛根湯の飲み合わせ

注意したい飲み合わせ

葛根湯の中には「麻黄(まおう)」という生薬が含まれています。この麻黄はエフェドリンという成分が含まれています。

エフェドリンには交感神経興奮作用・中枢興奮作用があり、気管支喘息などの咳止めとして使用されています。

西洋の風邪薬にもエフェドリンが含まれているものが多いので、葛根湯と一緒に服用するとその効果が強くあらわれて、動悸や血圧上昇といった状態をもたらすことがありますので、注意が必要です。医薬品を服用する前には必ず薬の専門家に相談しましょう。

マグロに注意?

以前ある雑誌に、マグロと葛根湯を一緒にとってはいけないと記載されていました。

説明によると、マグロやブリ、アジ、サンマといった魚類を食べた後に、葛根湯を服用すると、顔面紅潮、発汗、嘔吐、頭痛といったまるで食中毒と同じような症状起こすことがありと説明。

これは、マグロなどに含まれるヒスチジンという物質が体内でヒスタミンに変化し、葛根湯にはヒスタミンを体内にため込む働きがあるためヒスタミンの体内濃度が高まりヒスタミン中毒を起こしてしまうことがあるのだそうです。

どの生薬がヒスタミンをため込む性質があるのかがわかりませんし、どのくらいの量の魚を食べたらそうなるのかがわかりませんが、葛根湯を服用する際には気を付けてください。

妊娠中・授乳中の葛根湯

妊娠中や授乳中は薬の服用にはそうでないときに比べ慎重になります。

眠くならないし、西洋薬は怖いから葛根湯は安心して服用できるとは言えません。
妊娠中・授乳中は服用してはいけませんとも言えません。
西洋薬の風邪薬が危険であるとも言えません。

医療用葛根湯の添付文書には以下のように記載されています。(多くの漢方薬に、この記載があります。)

「妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」

危険性とはどのようなことを指しているのでしょうか。妊娠中であれば流産と早産、授乳中であれば乳児への影響が気になります。

漢方薬の中で「妊婦又は妊娠している可能性のある人には投与しないことが望ましい」と記載されている処方があります。

八味地黄丸、牛車腎気丸、六味丸、桂枝加朮附湯、真武湯、麻黄附子細辛湯、加味逍遥散、温経湯、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸料加薏苡仁、疎経活血湯、大防風湯、大黄牡丹皮湯、潤腸湯、桃核承気湯、防風通聖散、調胃承気湯、大承気湯、通導散、乙字湯、大柴胡湯、大黄甘草湯、治打撲一方、三黄瀉心湯、茵蔯蒿湯、桂枝加芍薬大黄湯、治頭瘡一方、修治ブシ末

これらの処方に含まれる生薬に、流早産、乳児への影響の危険性があるのです。その生薬は

下剤として使用される生薬:大黄、芒硝
活血作用(血流促進作用)のある生薬:牡丹皮、紅花、桃仁、牛膝
体を温め鎮痛作用のある生薬:附子

これらが含まれている漢方薬は妊娠中や授乳中には服用しないことが望ましいです。

葛根湯はこれらの生薬が含まれませんが、やむを得ない時には服用してもかまいませんという表現になるでしょうか。

葛根湯を服用したことで流産したり早産になったり、乳児に影響が出たという実例もないのですが、前例がないから安全とは言い切れないためあいまいな表現で申し訳ないです。

お薬を服用の際には必ず、医師又は薬剤師など薬の専門家にお尋ねください。