【漢方処方解説】「酸棗仁湯」寝付きが悪い・夜中に何度も目が覚める・動悸・めまい

【漢方処方解説】「酸棗仁湯」寝付きが悪い・夜中に何度も目が覚める・動悸・めまい

寝付きが悪い・夜中に何度も目が覚める・朝早く目が覚めてしまう・夢が多い・眠りが浅いなど満足のいく睡眠が得られないことが1か月以上続き、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現する状態を「不眠症」といいます。

不眠症に対して中医学では、様々なアプローチ方法があり、使用される漢方処方も数多くあります。その中でも高い睡眠効果が期待できる「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」についてご紹介いたします。

酸棗仁湯

【処方構成】
酸棗仁(さんそうにん)
知母(ちも)
川芎(せんきゅう)
茯苓(ぶくりょう)
甘草(かんぞう)

【効能効果】
体力中等度以下で,心身が疲れ,精神不安,不眠などがあるものの次の諸症:
不眠症,神経症

中医学解説

【適応証】
肝血不足・虚火上擾
 五臓の肝は「血」を貯蔵する場所、その「血」が不足した状態を「肝血虚」と言います。
肝は血流循環、栄養の供給、自律神経・ホルモンや運動神経系・目・筋と関係しているため、肝血が不足すると自律神経失調症、栄養不良、末梢神経障害、月経不順、眼科疾患などの自覚症状がみられます。

不眠が起こるのは、肝血が不足した状態が続くと陰(血・津液)の不足を引き起こします。それによって「虚火(虚熱)」が発生し、それが頭部に上昇し機能を乱す(上擾)ことによって、不眠症の症状を引き起こしていると考えます。

3世紀の初めに張仲景が記したとされる「傷寒雑病論」は「傷寒論(急性熱誠病)」と「金匱要略(慢性病)」という2部に分かれた疾患治療の古典。そこには『虚労、虚煩し眠るを得ざるは、酸棗湯これを主る』と記載されています。

【効能効果】
養血安神・清熱除煩
 血を養い心神(精神)を安定させ、虚熱をさます。

【目標】
 疲れてしまって眠れない、心身の疲労で眠れない、仕事が忙しくなって眠れない、大病をして眠れない、高齢者の不眠、寝汗やほてりを伴うなどがある場合を目標とします。

生薬解説

酸棗仁(さんそうにん)

酸棗仁湯の名称にもなっている生薬。クロウメモドキ科のサネブトナツメの成熟種子。
「補肝寧神」という作用により、肝血を補い、津液の消耗を防ぎ精神を安定させる働きがあり、煎じ薬の酸棗仁湯の中では1日15gもの量を使用します。
ちなみに、加味帰脾湯では1日3g、帰脾湯では1日2gの配合になります。

寧:ネイ やすい・むしろ
1.気持が落ちついている。やすらか。おだやか。やすらかにする。やすんずる。「安寧・寧日」。ねんごろにする。「丁寧」
2.どちらかといえば。むしろ。

知母(ちも)
ユリ科ハナスゲの根茎。
滋陰清熱・除煩という効能を持ち、陰を補い熱を除く働きがあります。
他に使用されている有名処方としては、白虎湯、白虎加人参湯、辛夷清肺湯、滋陰降火湯などでほてりを鎮め・渇きをいやす働きに優れています。

川芎(せんきゅう)
活血化瘀薬に分類する生薬で、血の巡りを促進し酸棗仁の働きを補助していきます。

茯苓(ぶくりょう)
サルノコシカケ科のマツホドの外層を除いた菌核。
消化器系の働きが弱い方によく使用される生薬ですが、「寧心安神」という心を落ち着かせる鎮静作用もあります。

甘草(かんぞう)
多くの漢方生薬に配合され全体の調和のために配合されています。

まとめ

酸棗仁湯は、心労、肉体疲労、加齢などによって「肝陰」が不足することで安定した睡眠を得られない状態を「肝陰」を補い心神を安定させることを目標としています。
その際に、のぼせ、ほてりや口唇・のどの乾燥などの熱証を伴うものと中医学処方解説などには記載されていますが、必ずほてりやのぼせがないと使用してはいけないというわけではありません。

また、酸棗仁湯を服用したからと言ってすぐに睡眠障害が改善するのではなく、肝血を補うことで睡眠の安定を促すお薬ですので、肝血不足の原因(胃腸障害、栄養障害、慢性炎症、疲労、腎の働きの低下など)も一緒に改善しながら睡眠の安定を目指すことが大切です。

漢方薬は基本的に1日3回食前に服用しますが、日中服用したからと言って眠くなったりしません。
西洋薬(睡眠薬や安定剤、抗不安薬)との併用も問題なく、長期服用しても習慣性がありません。

睡眠障害でお悩みの方は、漢方治療で根本的な体質を整えて自然な睡眠に戻るようにしてみませんか。お気軽にご相談ください。

(お願い)
漢方薬を服用する際には、必ず漢方の専門家にご相談のうえ服用するようにしてください。