「漢方薬を2種類飲んでいます。これって大丈夫ですか?」
漢方相談では、このような質問をよく受けます。
複数の漢方薬を使うこと自体が、良い・悪いという単純な問題ではありません。
大切なのは、
「なぜ、この2つを組み合わせているのか?」
ということです。
漢方を専門に扱う私たちは、処方を選ぶときに「症状がいくつあるから、漢方薬もいくつ」という考え方だけで処方を組み立てているわけではありません。
その人の体質や現在の状態を考え、
「今回の治療では、何を中心に考えるのか?」
そして、
「その中心となる治療を、何によって支えるのか?」
ということまで考えます。
「○○が良かった」という情報から、もう一歩
最近はSNSなどで、健康に関する情報を簡単に見つけられるようになりました。
「この薬草を飲んだら肌が良くなった」
「毎日これを煎じたら体調が良くなった」
「血糖値が気になるなら、○○を食べるといい」
など、実際の体験をもとにした情報もたくさんあります。
その方にとっては、本当に良かったのかもしれません。
ただ、ここで一歩立ち止まって、
「なぜ、その人にはそれが良かったのだろう?」
と考えてみることが大切です。
同じ症状でも、そこに至った身体の状態が同じとは限らないからです。
「○○が良い」という答えを覚えるだけではなく、
「なぜ良いのか」
を知る。
すると、同じ目的に対しても、ほかの方法があることに気づきます。
そして、
「自分の場合は、何が合うのだろう?」
と考えられるようになります。
これは、漢方を考えるうえでも、とても大切な視点です。
漢方は「症状=処方」だけで考えない
日本では、医療機関でも多くの漢方薬が使われています。
症状や疾患に対して漢方薬を選択するという使い方は、漢方を知るうえで分かりやすい方法です。
一方、漢方を専門に扱う私たちは、症状だけを見るのではなく、
「この症状は、この方の身体の中でなぜ起きているのだろう?」
というところから考えます。
例えば「不眠」という症状があったとしても、
「不眠だから、この漢方」
とすぐに決めるのではなく、
その人の体質や身体の状態、これまでの経過などを見ながら、どのような状態なのかを考えていきます。
これが漢方の弁証論治という考え方です。
漢方処方の中には「役割分担」がある
漢方処方には、複数の生薬が入っています。
それぞれの生薬が同じ仕事をしているわけではありません。
処方の中心となる生薬があり、その働きを助ける生薬があり、足りないところを補ったり、処方全体を調整したりする生薬があります。
この考え方を表すのが、
君臣佐使(くんしんさし)
です。
一つの処方を「チーム」と考えると分かりやすいでしょう。
中心となる人がいて、それを支える人がいて、足りないところを補う人がいる。
だから、漢方薬を見るときには、
「何種類入っているか」
だけではなく、
「それぞれの生薬は、何のために入っているのか?」
を見ることが大切です。
では、処方と処方を組み合わせるときは?
ここが、漢方相談で大切にしているところです。
2つの処方を使う場合も、単純に
「症状が2つあるから、漢方も2つ」
という考え方だけではありません。
例えば、
一方の処方を治療の主軸にする。
そして、
もう一方の処方で、その治療を支える。
という組み合わせがあります。
あるいは、
現在現れている症状に対応する処方と、その背景にある身体の状態を整える処方を組み合わせる。
という考え方もあります。
つまり、
「2つ使う」ということより、「2つをどのような関係で使うのか」が重要なのです。
漢方専門家は実際にどのように処方の組み合わせを考えているか?
例えば、ふらふらするような「めまい」があるとします。
そのめまいを中医学的に考えて、「肝陽化風」という状態が関係していると判断したとします。
ここで、「では、肝陽化風に対する処方を使えばよい」と終わるわけではありません。
漢方を専門に考える場合には、さらに一歩進んで、
「なぜ、この人は肝陽化風という状態になったのだろう?」
と考えます。
その背景をたどっていくと、例えば「腎陰虚」が土台にあることが分かったとします。
すると、
- 今、表に現れている「肝陽化風」
- その状態を生じさせている背景の「腎陰虚」
という、二つの異なる状態を考える必要があります。
この場合、肝陽化風に対する処方と、腎陰虚という土台に対する処方を組み合わせることがあります。
つまり、単純に「めまいだから処方A、腎陰虚だから処方B」という考え方ではありません。
「めまいとして現れている状態は何なのか」
「なぜ、その状態になったのか」
「その背景には何があるのか」
というように、一人ひとりの状態を順番に考え、その結果として処方の組み合わせが決まっていきます。
このように考えると、漢方薬を二つ使うこと自体が問題なのではなく、「なぜ二つの処方が必要なのか」という治療上の理由があることが分かります。
一つの処方の中では「君臣佐使」。
処方全体では「主軸となる処方と、それを支える処方」。
そして、その根底にあるのが、
その人の身体の状態を考える「弁証論治」です。
だからこそ、同じ症状であっても、同じ漢方薬になるとは限りません。
「何を飲むか」から、「なぜそれを飲むのか」へ
健康情報を見て、
「○○が良いらしい」
と思ったとき、そこで終わらず、
「なぜ、それが良いのだろう?」
と考えてみてください。
そして漢方薬についても、
「この症状には、この漢方」
だけではなく、
「なぜ、この処方なのだろう?」
「なぜ、この生薬が入っているのだろう?」
「なぜ、この処方と組み合わせるのだろう?」
と考えてみてください。
そうすると、漢方薬は単なる「症状に対する薬」ではなく、
一人ひとりの身体の状態を考え、それに合わせて組み立てていくもの
だということが見えてきます。
漢方相談で私たちがお話を伺っているのも、単に症状に合う薬を探すためではありません。
「その人の身体をどう捉え、どの方向に整えていくのか」
を一緒に考えるためなのです。
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