甘草の主成分による偽アルドステロン症について

甘草の主成分による偽アルドステロン症について

 甘草(かんぞう)は漢方薬の中でも非常に重要な生薬の一つであり、消化機能の改善、抗炎症作用、鎮咳作用など、さまざまな効果を持っています。そのため、多くの漢方薬に含まれ、体のバランスを整える役割を果たしています。また、甘草は甘味料として多くの加工食品・菓子類に使われています。しかし、一方で過剰摂取による偽アルドステロン症(むくみや高血圧、低カリウム血症など)が起こることがあるため、適切な服用管理と体調観察が大切です。

甘草(かんぞう)

甘草(学名: Glycyrrhiza uralensis Fisher 又は G. glabra Linne)は、マメ科の多年草で、古くから生薬や食品の甘味料として使用されてきました。その名の通り、「甘い草」として知られ、漢方薬の中でも特に使用頻度が高い生薬の一つです。

甘草の主な成分と作用

甘草にはさまざまな有効成分が含まれており、中でもショ糖のおよそ150倍の甘味を有するといわれているグリチルリチンが主要な成分として知られています。

グリチルリチン(抗炎症・抗アレルギー作用)
フラボノイド(抗酸化作用・肝機能保護)
サポニン類(免疫調整作用)

これらの成分により、甘草は以下のような効果を発揮します。

甘草の主な効果

1.消炎・鎮痛作用:炎症を抑え、喉の痛みや胃の炎症(胃炎・胃潰瘍)を緩和します。
2.鎮咳・去痰作用:気道を広げ、咳を和らげる作用があり、呼吸器系の症状を改善します。
3.抗アレルギー作用:免疫調整作用があり、アレルギー症状の軽減に役立ちます。
4.
胃腸機能の改善:胃の粘膜を保護し、消化機能をサポートします。
5.解毒作用:他の生薬の副作用を抑える「調和薬」としての役割も果たします。

偽アルドステロン症の発症メカニズム

1. 甘草に含まれるグリチルリチンの作用
甘草(カンゾウ)の主要成分である グリチルリチン酸(グリチルリチン) という成分が含まれており、摂取すると腸内細菌の産生するβ-グルクロニターゼにより グリチルレチン酸 に加水分解され、体内に吸収されます。

2. 11β-HSD2酵素の阻害
グリチルレチン酸は、腎臓の遠位尿細管や集合管に存在する酵素 11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素2(11β-HSD2) を阻害します。

3. コルチゾールがアルドステロン受容体を活性化
通常、この酵素はコルチゾール(ストレスホルモン)を不活性なコルチゾンに変換する働きがあります。しかし、グリチルレチン酸により11β-HSD2が阻害されると、コルチゾールが分解されずに蓄積し、腎臓のアルドステロン受容体(MR:ミネラルコルチコイド受容体) に結合してしまいます。

4. アルドステロン様作用による症状の発生
アルドステロン受容体が刺激されると、本来のアルドステロンと同じ作用を示し、次のような影響を引き起こします。

  • ナトリウムの再吸収増加 → 体内の水分貯留 → 高血圧
  • カリウムの排泄促進 → 低カリウム血症(筋力低下、脱力、痙攣、便秘、不整脈)
  • 水素イオンの排泄増加 → 代謝性アルカローシス

このように、アルドステロンが増えていないのにアルドステロン過剰のような状態が生じるため、「偽アルドステロン症」と呼ばれます。

偽アルドステロン症かもしれないと思ったら

甘草を含む漢方薬を服用中に以下の症状が現れた場合はすぐに医師・薬剤師に相談してください。

むくみ(浮腫)
 ・特に足や顔が腫れぼったくなる
 ・靴や指輪がきつく感じる

血圧の上昇
 ・今まで正常だったのに急に高血圧になった
 ・めまい、動悸、頭痛が続く

脱力感・倦怠感
 ・体がだるく力が入らない
 ・動くのがつらい、疲れやすい

こむら返りや筋肉のけいれん
 ・足や手の指がよくつる
 ・筋肉がピクピクと痙攣する

低カリウム血症の症状
 ・手足のしびれや脱力感
 ・異常に喉が渇く
 ・頻繁に尿が出る

偽アルドステロン症が疑われたときの対応

服用している甘草含有の漢方薬や食品を確認する
 ・漢方薬(処方名、1日の服用量の確認)
 ・市販の咳止め、胃薬、健康ドリンク
 ・甘草を含む食品(中華麺、漬物、菓子類など)

甘草・グリチルリチン酸を含む製品の使用を一時的に中止
 ・医師や薬剤師と相談し、まずは関連薬剤の服用を止めて様子を見る

医療機関を受診する(特に症状が強く続く場合)
 ・近くの内科やかかりつけ医に相談し、医師に治療に従う

再発防止のために漢方薬の飲み方を見直す
 ・「なんとなく」服用せず、必要なときに適切な量を服用する
 ・定期的に薬剤師や医師に相談し、長期服用にならないよう調整する

漢方薬に使用される甘草の配合量

漢方製剤には処方によって甘草の含有量が異なります。また、煎じ製剤と医療用エキス製剤でも含有量が異なり、製薬会社によっても異なることがあるため、現在服用している甘草の配合量を正確に知るためには添付文書を必ずご確認ください。

薬局製剤(煎じ薬)の配合量(すべての処方を記載していません。)

甘草の1日量(g) 処方名
5.0 甘草湯、甘麦大棗湯
4.0 炙甘草湯、芍薬甘草湯
3.5 甘草瀉心湯
3.0 黄耆建中湯、芎帰膠艾湯、小青竜湯、人参湯、排膿散及湯
2.5 生姜瀉心湯、半夏瀉心湯

医療用漢方製剤の配合量(すべての処方を記載していません。)

甘草の1日量(g) 処方名
8.0 甘草湯
6.0 芍薬甘草湯
5.0 甘麦大棗湯
3.0 芎帰膠艾湯、小青竜湯、人参湯、排膿散及湯
2.5 半夏瀉心湯

甘草1gあたりのグリチルリチン酸量の目安

一般的な漢方処方では、甘草の配合量は1日あたり2~6g程度のことが多く、これによりグリチルリチン酸の摂取量も変わります。

甘草1g中に含まれるグリチルリチン酸の量は、甘草の種類や産地、抽出方法によって若干異なりますが、一般的には2~8%程度とされています。厚生労働省の通知「グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取扱いについて」の中では、1gの甘草に含まれるグリチルリチン酸の量は40mgとなっています。

⚠️ 厚生労働省の推奨
厚生労働省はグリチルリチン酸の1日摂取量の上限を200mg以下としています。つまり、甘草としてはおおよそ5.0gが上限の目安になります。

ただし、他の漢方薬や食品(甘草エキスを含むお菓子や飲料)からの摂取も考慮し、長期間の多量摂取には注意が必要です。

以下の写真は、我が家にある「味付け海苔」と私のおやつの「お菓子」の袋に記載してある【原材料名】が記載してある部分です。甘味料として甘草が使用されています。

甘草を甘味料として使用する場合、食品表示法に基づき、使用量に関わらず原材料名への表記が必要です。食品表示基準では、食品に使用したすべての原材料を重量順に表示することが義務付けられています。したがって、甘草を微量でも使用した場合は、原材料名に「甘草」と記載する必要があります。

グリチルリチンを多く摂取してしまう生活習慣を見なおそう

グリチルリチン(甘草の成分)は、主に食品添加物や健康食品、漢方薬として使用されています。そのため、以下のような生活習慣を持つ人は過剰摂取のリスクが高まります。

加工食品・インスタント食品をよく食べる人
市販の飲料(特に健康飲料・ハーブティー【リコリス茶】)を頻繁に飲む人
外食やコンビニ食が多い人(食品添加物として含まれる場合あり)
のど飴やトローチを頻繁に摂取する人(甘草が配合されていることが多い)
漢方薬を長期間服用している人(特に複数の漢方薬を分量を調整せずに同時に服用する場合)
甘草を使った健康食品やサプリメントを愛用している人

甘草を含む漢方薬を服用する時の注意

✅ 漢方薬を服用する際には、ご自分の症状や体質について【問診】をしていただきましょう
✅ 服用中の体調の変化を【相談】できる薬局・薬店で漢方薬を処方してもらいましょう

⚠️芍薬甘草湯の服用についてのご注意

芍薬甘草湯は、筋肉のけいれんやこむら返りに速やかに作用する漢方薬ですが、常用する薬ではなく、必要な時に頓服として使用することが基本です。

その理由としては、
①甘草の配合量が他の漢方薬に比べ多く配合されている(医療用漢方薬6.0g/1日3包中
②芍薬甘草湯は服用後20~30分程度で症状の緩和が期待できるため、症状が出た時に服用することで十分に効果を発揮します。
繰り返しますが、芍薬甘草湯は日常的に服用し続ける必要はありません。


甘草を含む漢方薬を内服している患者は多数いますが、すべての内服者に発症することはなく、グリチルリチン酸の用量依存性に生じる病態であります。また、私の経験的において少量でも発症する方がいるため、日頃から添加物の多い食事をしている、外食が多い、むくみや高血圧、脱力感がある、ストレスが多い、グリチルリチン製剤や利尿薬を服用している場合は、甘草を含む薬を服用する際には、必要に応じて摂取量を調整する必要があるため、医師・薬剤師に相談しましょう。

偽アルドステロン症が疑われる場合には、甘草を含む漢方薬を中止し様子を見て、症状が強く続く場合は医療機関をすぐに受診し、適切な対応をとることが大切です。

また、過度に意識しすぎても良いことはありません。いつでも相談できる体制を整えておくことが大切です。