肺は呼吸を司り、外界からの邪気(病気の原因)を防ぐ重要な臓です。また皮膚や汗腺とも密接に関わり、全身の気の巡りや免疫力にも影響します。
五臓の中では、「相傅(そうふ)の官」と呼ばれ、君主(心)を補佐して国を治める宰相のような存在にたとえられます。
肺の主な働き
宣発粛降:気の出入りを調整
呼吸によって外の空気を取り込み、そこから得た清らかな気(清気)を「宣発粛降」という働きで、全身に巡らせます。
- 宣発:栄養や気を全身に広げる
- 粛降:呼吸により不要な水分や老廃物を下へ降ろす
また、飲食物から得られた栄養分(穀気)とともに、全身のエネルギーである「宗気(そうき)」を作り出します。肺の働きが弱まると、息切れ、疲れやすさ、声のかすれなどが起こりやすくなります。
「宣発粛降」の動きがうまくいくことで、呼吸が深くなり、皮膚や汗の調節、体温の維持もスムーズになります。
肺の宣発・粛降が乱れると、咳、鼻づまり、喉の違和感、むくみ、便秘などが現れることがあります。
表裏関係:大腸とのつながり
中医学では「肺と大腸は表裏(ひょうり)の関係」にあります。
肺が気を下げる(粛降)ことで大腸の働きが助けられ、排便がスムーズになります。
肺の働きが弱ると、気が下がりにくくなり、便秘や腹部の張りを起こすことがあります。
逆に大腸の調子が悪いと、肺に影響して咳が出やすくなることもあります。
五官・五華・五情との対応
| 分野 | 対応 | 意味 |
|---|---|---|
| 五官 | 鼻 | 鼻の通りや嗅覚は肺の機能状態を反映 |
| 五華 | 皮毛(肌・毛) | 肌の乾燥やハリに肺の気の状態が表れる |
| 五情 | 哀 | 悲しみや憂いは肺気の不調に関連 |
鼻に開竅(かいきょう)
肺の状態は鼻と深く関係しています。鼻づまり、くしゃみ、嗅覚の低下などは、肺の働きが滞っているサインかもしれません。
「皮毛」を主り、衛気による防御作用
肺は皮膚や体毛を守り、外からの邪気を防ぐバリアの役割を持っています。この働きは「衛気」と呼ばれる体表を巡る防御の気によって支えられています。肺の働きが十分であれば、皮膚や毛穴が潤い、外界の刺激から体を守ることができます。
- 風邪や花粉、ほこりなどから体を守る
- 免疫力や体温調整にも関わる
悲しみ・憂いが肺に与える影響
- 悲しみや憂いが強く続くと、肺の気が弱くなりやすいといわれます。
- 肺気が不足すると、呼吸が浅くなったり、声がかすれたり、疲れやすくなったりします。
- また、皮膚や体毛の潤いが失われやすく、風邪をひきやすくなることもあります。
肺の状態が感情に与える影響
- 肺気が十分で健やかであれば、悲しみや憂いの感情に振り回されにくく、心も落ち着きやすくなります。
- 逆に肺が弱ると、些細なことでも憂鬱になったり、気持ちが沈みやすくなる傾向があります。
肺が弱ったときに現れる症状
- 咳、喘息、痰が多い・少ない
- 鼻づまりや鼻水、嗅覚低下
- 乾燥肌、汗の異常、肌荒れ
- 疲れやすさ、息切れ、声がかすれる
- 悲しみや憂鬱などの精神面への影響
養生の視点:肺を守る方法
- 適度な呼吸運動:深呼吸や軽い運動で肺の気を巡らせる
- 乾燥対策:加湿や水分補給で肺を潤す
- 喫煙や冷たい空気の回避:肺に負担をかけない
- 栄養補給:白い食材(大根、梨、白きくらげ)で肺を養う
- 感情管理:過度の悲しみや憂いを避ける
まとめ:五臓「肺」について
- 「肺」は呼吸と外界の防御を司る臓
- 主な役割は
1.宣発粛降(気の巡りを調整する)
2.衛気の防御作用(免疫力・体温調整)
3.大腸との表裏関係(水分排泄と便通の調整) - 鼻や肌、悲しみなどに症状が表れやすい
- 肺の働きが弱まると、咳、乾燥肌、息切れ、精神面の不調が現れる
- 養生のポイントは、呼吸法・乾燥対策・栄養補給・感情管理

