高齢者が服用する薬の種類が増えると、副作用や薬物有害事象のリスクが高まることが多くの研究で示されています。例えば、6種類以上の薬を服用する高齢者では、転倒や認知機能の低下、ふらつきなどの有害事象が増加する傾向があります。これは、薬同士の相互作用や、体内での薬の代謝・排泄能力の低下が影響していると考えられています。
この背景には、複数の病院や診療科にかかり、それぞれで処方された薬が積み重なっていく構造があります。日本は「医療機関を自由に受診できる国」だからこそ、薬が増えやすいという一面もあります。
実際の事例
例えば、睡眠導入剤・降圧剤・胃薬・痛み止めなどを同時に服用している高齢者では、ふらつきやめまい、胃腸障害が起こりやすく、日常生活の質を低下させる場合があります。これらの症状は転倒や骨折のリスクにもつながります。
多剤服用がもたらす問題
この状況は、単に「薬が多い」だけでは済まされません。
- 副作用・相互作用リスクの増大:薬が増えるほど、薬同士の相互作用や副作用の発現が高まります。特に高齢者は、薬の代謝や排泄機能が低下しているため、薬が体内に長くとどまり、予期しない副作用が現れることがあります。
- 残薬や医療費の増大:薬が多くなることで服用しきれず残薬が発生し、環境や医療費への影響も問題となります。
社会的な負担だけでなく、患者本人にとってのリスクも見逃せません。特に高齢者は、肝臓や腎臓の働きが衰えているため、若いころと同じ量を服用しても副作用が出やすくなります。
さらに問題なのは、多くの方が「なぜその薬を飲んでいるのか」を理解していない点です。医師から「飲んでください」と言われたから飲んでいる──その繰り返しの中で、治療の目的が見えなくなっているケースが非常に多いのです。これが「アドヒアランス(治療への理解と納得)」の欠如といわれる現状です。
漢方薬による多剤服用対策
漢方薬は「統一体としての視点(整体観)」から、体全体のバランスや症状の背景を見て処方を決めるため、少ない薬で複数の症状を改善できることがあります。例えば
- 胃腸の不調、倦怠感、睡眠障害を同時に抱える高齢者に対して、個別に西洋薬を複数服用するのではなく、症状全体を整える漢方薬でまとめて対応できるケースがあります。
- 漢方薬は体質や症状の変化に応じて調整できるため、薬の種類を最小限に抑えつつ、安全に症状を管理することが可能です。
このように、漢方薬を上手に取り入れることで、多剤服用による副作用リスクや残薬の問題を軽減する可能性があります。
患者と家族ができること
現状を変える力は、患者本人とそのご家族にあります。
「薬は減らせない」と思い込む必要はありません。賢く薬と向き合うために、できることはあります。
- 薬の服用状況を把握する
お薬手帳を活用し、現在服用している薬の種類や用量を把握しましょう。複数の医療機関を受診している場合は、全ての薬を共有することが重要です。 - 医師や薬剤師と相談する
薬の服用に関して不安や疑問がある場合は、積極的に医師や薬剤師に相談しましょう。必要に応じて、薬の見直しや減薬を検討することができます。 - 家族と情報を共有する
家族と共に薬の服用状況を確認し、支援が必要な場合は協力し合いましょう。家族の理解と協力が、健康管理において大きな力となります。
小さな一歩でも、積み重ねることで「必要な薬だけを飲む」方向へと変えていけます。
最後に
多剤服用は、単に薬の数が多いというだけでなく、副作用や薬物有害事象のリスクを高める可能性があります。患者自身とその家族が積極的に情報を収集し、医療従事者と連携することで、より安全で効果的な治療が可能となります。自分の健康を守るために、日々の薬の服用状況を見直し、必要なサポートを受けることが大切です。
これから高齢期を迎える世代、すでに多くの薬を服用している方、そのご家族にこそ、自分の体を守る視点を持っていただきたいのです。
薬を減らすことは「治療をやめること」ではありません。むしろ「治療の質を高めること」に直結します。

