機能性ディスペプシア(FD)は、胃や上腹部の不快感や痛み、膨満感、早期満腹感などの症状が続くにも関わらず、内視鏡検査や画像診断で明確な異常が認められない状態を指します。西洋医学では、胃の運動機能の異常や知覚過敏、胃酸分泌の異常などが関与しているとされています。
機能性ディスペプシアの定義
症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにもかかわらず、慢性的に心窩部痛(みぞおちの痛み)や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患
日本消化器病学会
漢方医学における脾胃の役割
漢方でいう「脾胃」とは、消化・吸収・栄養の運搬・水分代謝を担う重要な臓腑です。
- 脾(ひ):食べたものを消化吸収し、栄養や気血を作る。
- 胃(い):食物を受け入れ、脾と協力して消化する。
機能性ディスペプシアと脾胃の関係
機能性ディスペプシアの症状は、脾胃の働きの低下と密接に関連しています。脾胃の気虚(ききょ)や湿熱(しつねつ)などの状態が、消化機能の低下や胃腸の不快感を引き起こすとされています。
脾胃の働きを低下させる要因
脾胃の働きは、以下のような要因によって低下することがあります
- 生活習慣の乱れ
不規則な食事、暴飲暴食、冷たい飲食の多用など。 - 加齢や体質
脾気虚(脾の気が不足する状態)により消化力が落ちやすくなる。 - ストレス
精神的な緊張や不安は、脾胃の働きを低下させ、消化機能を乱す。 - 薬剤の影響
長期の解熱鎮痛薬や抗生物質の服用は脾胃に負担をかけることがあります。
脾胃の働き低下と関連しやすい症状・疾患
脾胃の働きの低下は、以下のような疾患と関連しています
- 不眠症:脾胃の働きが低下すると、血の生成が不足し、心の安定が損なわれる。
- 皮膚疾患:脾胃の機能低下により、皮膚の潤いが不足し、アレルギーや湿疹などが発生しやすくなる。
- 自律神経失調症:脾胃の働きの低下が、全身のバランスを崩し、自律神経の乱れを引き起こす。
機能性ディスペプシアに対する漢方治療の基本方針
漢方治療では、脾胃の気・血・水のバランスを整えることを中心に行います。
症状や体質に応じて処方を選択し、生活習慣改善と組み合わせることが効果的です。
| 処方名 | 適応症状・ポイント |
|---|---|
| 六君子湯 (りっくんしとう) | 脾胃の気虚を補い、胃もたれや疲労感を改善する補助的アプローチ。 |
| 香砂六君子湯 (こうさろっくんしとう) | 気滞を緩和し、膨満感やげっぷ、食欲不振に対応。 |
| 半夏瀉心湯 (はんげしゃしんとう) | 胃の逆流や胸やけ、嘔気などに対応。気の巡りを整える。 |
| 補中益気湯 (ほちゅうえっきとう) | 全身の疲労感や倦怠感が強い場合に、脾胃を元気にする補助。 |
| 平胃散 (へいいさん) | 脾胃湿熱や消化不良、膨満感に有効。食べすぎ・飲みすぎの後にも。 |
| 柴胡疎肝湯 (さいこそかんとう) | ストレスによる胃の不快感や気滞症状に対応。 |
これらはあくまで一般的な例であり、患者の体質や症状に応じて処方は個別に調整されます。
漢方治療のポイント
機能性ディスペプシアに対する漢方治療では、以下の点が重要です
- 個別の症状に応じた処方:患者一人ひとりの症状や体質に合わせた漢方薬の選択。
- 生活習慣の改善:規則正しい食生活やストレス管理など、生活習慣の見直し。
- 継続的な治療:効果が現れるまでには時間がかかることが多いため、継続的な治療が必要。
まとめ
- 機能性ディスペプシアは脾胃の働きの低下と密接に関係しています。
- 漢方治療では、脾胃の気・血・水のバランスを整える処方が中心です。
- 症状や体質に合わせた処方例として、六君子湯、半夏瀉心湯、香砂六君子湯などが用いられます。
- 生活習慣改善との併用で、より効果的な症状の改善が期待できます。
みなみ野漢方薬局では、患者さまの体質や症状に応じて、最適な漢方薬の選択や生活指導を行っています。気になる症状がある方は、ぜひご相談ください。

