「夜間にトイレが近い」「最近、尿の勢いが弱くなった」「冷えとむくみが気になる」——。
そんなときによく名前が挙がる漢方薬が 八味地黄丸(はちみじおうがん) です。
テレビやインターネットでも頻繁に紹介され、排尿トラブルに良いという印象を持たれる方が増えています。しかし、八味地黄丸は誰にでも合うわけではありません。体質を見極めずに服用すると、かえって合わないこともあります。
八味地黄丸とは
八味地黄丸は、「腎虚(じんきょ)」と呼ばれる体のエネルギー・水分代謝の低下を補う処方です。
構成生薬は以下の通りです。
構成生薬
- 熟地黄(ジュクジオウ)・ゴマノハグサ科のジオウの肥大根を酒で蒸したもの
- 山薬 (サンヤク)・・・ヤマノイモ科のナガイモの外皮を除去した根茎
- 山茱萸(サンシュユ)・・ミズキ科のサンシュユの成熟した果肉
- 沢瀉 (タクシャ)・・・オモダカ科のサジオモダカの周皮を除いた根茎
- 茯苓 (ブクリョウ)・・サルノコシカケ科のマツホドの外層を除いた菌核
- 牡丹皮(ボタンピ)・・・ボタンピ科のボタンの根皮
- 桂皮 (ケイヒ)・・・・クスノキ科のケイの幹皮
- 炮附子(ホウブシ)・・・キンポウゲ科のカラトリカブトの子根を炮製
このうち、地黄・山茱萸・山薬が「補う」グループ、牡丹皮・沢瀉が「余分な熱や水分をさばく」グループ、桂皮・附子が「温める」グループです。
つまり、冷えを伴う老化・虚弱体質に向く補腎剤です。
適応する体質・症状
- 下半身の冷え、足腰のだるさ
- 頻尿、夜間尿、残尿感
- 手足の冷え、むくみ
- 慢性疲労、耳鳴り、めまい
- 加齢による体力低下
特に「冷え」と「尿トラブル」が同時に見られる方に合いやすい処方です。
類似処方との違い
| 処方名 | 特徴 | 適する体質・症状 |
|---|---|---|
| 八味地黄丸 | 冷えを伴う腎虚。温めながら補う。 | 冷え性・夜間尿・腰痛・頻尿 |
| 六味地黄丸 | 八味地黄丸から温薬(桂皮・附子)を除いた処方。陰虚タイプに。 | のぼせ・口渇・寝汗・乾燥体質 |
| 牛車腎気丸 | 八味地黄丸+牛膝・車前子。利水・鎮痛作用を強化。 | 下肢のむくみ・しびれ・糖尿病性末梢神経障害 |
| 知柏地黄丸 | 六味地黄丸+知母・黄柏。熱感・炎症を伴う腎虚に。 | 尿の熱感・口の乾き・のぼせ・ほてり |
同じ「尿トラブル」でも、冷えている人・熱がこもっている人・むくみが強い人では、使う漢方薬が異なります。
これが中医学でいう「弁証論治(べんしょうろんち)」の考え方です。
自分に合った処方を選ぶには
- 八味地黄丸は腎虚による排尿トラブルに有効
- 体を温める力があり、冷えを伴う人に向く
- 類似処方(六味地黄丸・牛車腎気丸・知柏地黄丸)との違いを理解して選ぶことが大切
「頻尿だから八味地黄丸」ではなく、
「冷えているのか」「のぼせているのか」「疲れやすいのか」など、
体質の全体像を見て判断することが大切です。
みなみ野漢方薬局では、体質・症状・生活習慣を丁寧にお伺いし、
あなたに合った処方を見極めてご提案いたします。

