不眠症と睡眠薬の役割
不眠は「なかなか寝付けない」「途中で何度も目が覚める」「眠りが浅く熟睡できない」といった形で現れ、心身に大きな負担を与えます。
現代医学では睡眠薬がよく使われ、確かに「眠る」という目的を果たすには有効です。しかし睡眠薬はあくまで睡眠を確保する対症療法であり、不眠の根本原因を改善するものではありません。
また、長期間の服用によって依存性や薬の効きが悪くなる耐性が生じることがあり、病態を悪化させてしまうリスクも否定できません。そのため、「眠れないから薬を飲み続ける」だけでは十分とは言えないのです。
漢方治療が目指すもの
漢方では、不眠症を単なる「眠れない症状」とは捉えません。
背景には 心と体のアンバランス があり、それを整えることが治療の中心となります。
例えば――
- 心身のストレスや不安 → 気の巡りが滞り、眠れなくなる
- 血や陰の不足 → 心を養えず、眠りが浅くなる
- 痰熱や胃腸の不調 → 体が落ち着かず、夢が多く目覚めやすい
このように原因は人によって異なるため、漢方では弁証論治(体質・症状に基づいた処方の選択)を重視します。
不眠症に用いられる代表的な漢方薬
- 酸棗仁湯(さんそうにんとう)
心身を鎮め、眠りを安らかにする。神経過敏で眠りが浅いタイプに。 - 帰脾湯(きひとう)・加味帰脾湯
心と脾を補い、不安や動悸を伴う不眠に。神経の疲れが強い方に適応。 - 加味逍遥散(かみしょうようさん)
ストレスでイライラ・緊張が強く眠れない女性によく用いられる。 - 黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう)
不安・焦燥感が強く、心火が盛んで眠れない方に。 - 抑肝散(よくかんさん)
神経過敏やイライラ、不眠とともに夢をよく見る方に適応。 - 天王補心丹(てんのうほしんたん)
心と腎の陰を補い、体の潤いを回復させる。動悸・焦燥感・口の渇きを伴う慢性的な不眠に適応。年齢とともに体力や潤いが不足した方に特に用いられる。
漢方治療の利点
- 根本的な原因にアプローチ:単に眠ることを目的にせず、心身全体を整える。
- 長期服用がしやすい:依存性が少なく、体質改善を目指せる。
- 心身両面に作用:不眠だけでなく、倦怠感・食欲不振・イライラなどの随伴症状も改善できる。
不眠改善のセルフケア(養生法)
漢方薬と合わせて、生活習慣を整えることも大切です。
- 就寝前のリラックスタイム
スマホやパソコンの使用を控え、読書や音楽などで気持ちを落ち着けましょう。 - 夕食は軽めに、寝る3時間前までに
胃腸に負担を残すと、眠りの質が下がります。 - ぬるめのお風呂でリラックス
体温がゆるやかに下がるタイミングで眠気が訪れやすくなります。 - 日中は適度に体を動かす
軽い運動や散歩で気血の巡りを促し、夜の眠りを助けます。 - 漢方的養生
「心を静めるお茶(菊花茶、なつめ茶など)」を取り入れるのもおすすめです。
まとめ
睡眠薬は不眠のつらさを和らげる大切な選択肢ですが、それだけに頼るのは不安も残ります。
漢方治療は、「眠れるようにする」だけでなく「眠れる体質に整える」ことを目的としたアプローチです。
不眠に悩まれている方は、ぜひご自身の体質や症状に合った漢方薬を検討されてみてください。ご不安があれば、当店へお気軽にご相談ください。



