40代後半から50代にかけて、女性の体は大きな転換期を迎えます。
「急に顔が熱くなる」「イライラする」「眠れない」「汗が止まらない」——
これらの症状は、更年期におけるホルモンバランスの変化と深く関わっています。
西洋医学では「女性ホルモン(エストロゲン)の減少」として説明されますが、
漢方では「五臓(ごぞう)」や「気・血・水(き・けつ・すい)」のバランスの乱れとして捉え、
その人の体質に合わせた調整を行うことで、より自然に症状を和らげていきます。
五臓からみた更年期の変化
腎(じん)—体の根本の力が衰える
腎は「生命エネルギーの源」であり、成長・発育・生殖をつかさどります。
更年期はこの腎の精(腎精)が減少する時期で、体内の「陰陽のバランス」が崩れやすくなります。
腎精の働きは、「腎陽」と「腎陰」の2つに分けられています。腎精の衰えはそれぞれ「腎陽虚」「腎陰虚」と呼びます。
特に腎陰虚(じんいんきょ)になると、身体を冷ます力が不足し、相対的に熱が上に上がることで
顔がほてる・手足が熱い・夜に汗をかく・のぼせやすいといった症状が出ます。
一方で、下半身は冷える「冷えのぼせ」も特徴的です。
肝(かん)—気の流れと感情のコントロール
肝は「気の巡りを整え、感情のバランスを保つ」働きを持ちます。
更年期には肝の働きが乱れやすく、肝気鬱結(かんきうっけつ)といわれる「気の滞り」が起きることで
イライラ・怒りっぽい・ため息が多いなどの精神的な不調が現れます。
また、肝の熱が上に昇る肝陽上亢(かんようじょうこう)になると、
顔が赤くなる・頭がのぼる・めまい・耳鳴りなどの症状が出ることもあります。
心(しん)—精神と睡眠をつかさどる
心は「神(しん)」と呼ばれる精神活動をつかさどります。
腎陰の不足により心を冷ます力が足りなくなると、心火(しんか)が高まり、
不眠・焦燥感・動悸・不安などの精神的な症状があらわれます。
この状態を心腎不交(しんじんふこう)といい、
心と腎の連携が乱れることで、体も心も落ち着かなくなるのです。
気・血・水からみた更年期症状
| 症状 | 関係する臓腑 | 気血水の乱れ | 主な状態(中医学的解釈) |
|---|---|---|---|
| 冷えのぼせ | 腎・心 | 陰虚・気逆 | 陰が不足して陽が上に上がる |
| ホットフラッシュ | 腎・肝 | 陰虚・虚熱 | 腎陰不足による内熱 |
| イライラ・怒りっぽい | 肝 | 気滞・陰虚 | 気の巡りが滞り、熱がこもる |
| 不眠・動悸・焦り | 心・腎 | 心火旺・陰虚 | 腎陰不足により心火が鎮まらない |
代表的な漢方処方
| 症状タイプ | 主な処方例 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| のぼせ・発汗が強い | 知柏地黄丸 (ちばくじおうがん) | 腎陰を補い、熱を鎮める |
| 冷えのぼせ・動悸・不眠 | 加味逍遥散 (かみしょうようさん) | 気の巡りを整え、精神を安定させる |
| イライラ・顔の火照り | 柴胡加竜骨牡蛎湯 (さいこかりゅうこつぼれいとう) | 気を巡らせて熱を鎮め、気持ちを落ち着かせる |
| のぼせ・耳鳴り・めまい | 温清飲 (うんせいいん) | 血熱を冷まし、心身のバランスをとる |
セルフケアのポイント
- 睡眠・休養をしっかりとり、体の陰(潤い)を消耗しない
- 過度なストレスやイライラをためないようにする
- 適度な運動で気の巡りを良くする
- 体を冷やさず、温めすぎないように中庸を保つ
まとめ
更年期の不調は「加齢による自然な変化」ではありますが、中医学では「体のバランスが崩れた状態」として改善を目指すことができます。
ホルモンの波をやわらげ、心身のバランスを整えることで、より快適な日常を取り戻すことが可能です。
更年期障害の漢方治療では、症状だけを見るのではなく、「その人の体質(どの臓に偏りがあるか)」を重視します。当薬局では、体質や症状に合わせて、丁寧にご相談を行いながら漢方薬を選定しております。「なんとなく調子が悪い」「気持ちが不安定」など、小さな変化でもお気軽にご相談ください。


